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カンボジア内戦による人口構成の偏りと教育・ガバナンスの強化について

2016-03-04

1 中堅層の非常に少ない人口構成
 カンボジア内戦によって、当時800万人の人口の4分の1にもあたる200万人が虐殺されたと言われ、現在もその影響は色濃く、35歳~39歳の層が極端に少なくなっている。これらの層は企業経営的にはマネージャークラスの層にあたる(JICA事務所)。
 カンボジアでは高等教育を受ければ受けるほど職に就けない状況にある。JICA事務所の女性職員は大学卒業のエリートであるが、300ドル/月で雇われている。彼女のような優秀な人材はもっと高い収入の職に就くべきであるとJICAの次長は考えているが、そのような職種は非常に少ない。
 まだ、中間管理職を数多く必要とするほどには企業が成長していないことや、ポル・ポト政権下で真っ先に知識人層や公務員層が虐殺され官僚機構が徹底的に破壊されたため、和平20年後の今日もまだ行政組織が弱く、また徴税能力も低いままの状態であるため、給料も安く優秀な人材を採用できないこともある。
 ちなみに、インドネシア:ジャカルタやベトナム:ホーチミンなどでは数か国語を操るバイリンガルでマネジメントのできる人材はワーカーの給料の10倍以上で、引く手あまたの印象があったが、プノンペンでは逆である。
 訪問したTiner Fashion Cambodiaにおいては、マネジメント層を中国子会社の人材に頼っているが、クメール語⇔中国語⇔英語⇔日本語というややこしい翻訳経路を辿ることとなり、伝えたいことの10分の1も伝わらない。日本語⇔クメール語がベストだが、最低でも英語又は中国語による意思疎通が必要であろう。日本語⇔クメール語の意思疎通が出来るようになれば、生産工程の改善も進む。現在、研修生6人を大野の関連会社工場に受け入れており、こうした人材が中堅として育てば管理も大きく前進しよう。
 ハル・プノンペンコミックセンターの場合は、マネージャークラスは全員日本語が理解でき、現地在住日本人も3人雇用していることなどもあり、比較的スムーズなようである。

2 教育の質の改善
 JICA事務所によると、カンボジア全体として学校の建物などのハードは整って来ているが、教育の質は非常に低い。教育も徹底的に破壊されたためクメール語の教科書がない。教える教師がいないので識字率も高くない(75%)。貧弱な教育を受けた者が教師になったため教師の質が悪く自信を持って教えることができない、数学や理科などの知識のない教師も多い。教師になりたがる人材がいないという。
 そもそも公務員の給料が安く、誰も教師になりたがらないので成績の悪い者が教師になる。全国統一高校試験においては試験問題の漏えいなども多々課題があり、合格率は8~9割あったが、昨年秋に、試験を厳密化したところ、合格率は2割に落ちてしまった。追試を含めても4割しか合格できなかった。校長・教師を含め公務員の給料が安いことが試験漏えいなどの腐敗を生んでいる。
 今年1月から縫製業の最低賃金は140ドルになったというのに、校長の給料は80ドル/月といわれ、卒業証書を出すのに賄賂を要求するありさまである(Tiner Fashion Cambodiaでの情報)。公務員の給料を上げなければ教育の質を改善することはおぼつかないが、そのためには行政組織を整えなければならない。カンボジアの教育を変革するにはかなり時間を要すると思われる。

3 ガバナンスの強化
 ポル・ポト政権下で法曹界も大打撃を受けた。内戦が終わってみると、法律の専門家は6名しか生存していなかった。国家財政が貧弱なため税金を取る能力も養成しなければならない。日本の支援でカンボジア民法を作り、2011年12月から新民法が適用されることとなった。検事・判事など法曹の養成も重要であり、JICAは、2001年から2010年までは弁護士養成校に、また、2005年から現在までは王立裁判官・検察官養成校(司法研修所)に、現役の裁判官、検察官、弁護士らを専門家として派遣し、民事教育の質の向上を目指して継続的な支援を行っている。
 民法を作るにあたって、議論は、日本語とクメール語で通訳を介して行われ、間に英語などを介在させないことにより、英米法などの異なった概念が混入することを防ぎ、草案の概念をダイレクトに伝わることに努力した。いわゆる「ソフト・パワー」といってよいが、民法の適用を契機に投資環境が整い、日系企業の進出が容易になることが期待される。

4 欧米流経営の直接の持ち込みと日本流の対応
 カンボジアの大学進学率は3%で、大学の授業は欧米の英語の教科書を直接使用し、英語で行われている。クメール語の教科書は全くないので、英語の教科書を翻訳するよりも情報はダイレクトで早い。逆に言うと自国語で考えないということでもあるので、東南アジア随一の英語力があるともいえる。
 ちなみにプノンペン大学の人気学科の第一は英語学科であり、第二位は日本語学科である。しかし、自国語であるクメール語で思考しないということは欧米流の経済学や経営学・哲学などが翻訳=消化なしに直接持ち込まれるということでもある。
 かつて、日本においても伊藤清氏の確率論を利用した「金融工学」(financial engineering)やデリバティブ(derivatives)・CDS (Credit default swap)といった欧米直輸入の金融用語があたかも高尚な理論を背景としたものであるかのようにもてはやされ時期もあったが、リーマン・ショックを経てみると巨大な金融詐欺であることが明らかとなった。欧米言語の直接の持ち込みは欧米流の企業流儀や労働慣行など色のついたものもある。
 また、こうした欧米スタイルの外に、最近では華僑流のビジネススタイルも持ち込まれている。カンボジアは2月に旧正月はなく、4月がクメール正月であるが、訪問先の企業も含め「春節」も祝う傾向も強くなっている。シンガポールのような金融立国一本で行くというのならいざ知らず、これから産業化を図るのであれば、自国文化や慣習との摩擦も考え、クメール語で一旦消化する作業は欠かせない。カンボジア日本文化センターではこうした動きに対応する意味もあり、「日本型経営スクール」や「日本語スクール」を行っている。

5 ポル・ポト裁判の行方について
 そもそも、カンボジアのこれほどの人材難を引き起こしたポル・ポト派による自国民の大量虐殺がなぜ起こったのか。現在も真相を明らかにすべく「特別法廷」が開かれているが、現地ガイドによると「裁判」は欧米向けの政治ショーであり、カンボジア人は何も期待していないとのことである。
 理由は、文化大革命の影響を受けていたといわれるポル・ポト派を積極的に支持していた中国が現在は最大の援助国であり貿易額も一番大きいこと、ポル・ポト派の支配を打倒したベトナムとの交流も深いこと、内戦に最後まで関与したタイとの関係もポスト・タイで経済交流が深まっていることなどをあげている(ベトナム・タイ両国とは過去のクメール王朝時代からの歴史的関係もある)。
 また、欧米諸国や日本も内戦中、虐殺に目を瞑りポル・ポト派を含む三派連合政権を支持しつづけたという負い目もあり、支援に積極的な面もある。現政権はこうした複雑な利害の絡む中で各国から積極的な援助を引き出そうとしている(現地ガイドによると、欧米人はプノンペンで観光では必ずポル・ポト政権下の拷問と虐殺を今に伝える「トゥールスレン博物館」を見学するという)。

(和田龍三)

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日本語のできるスタッフも多い
ハル・プノンペンコミックセンター

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Tiner Fashion Cambodia
玄関の春節飾

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カンボジア日本人材開発センターで

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クメール軍とチャンパ軍(ベトナム)との
戦いを描いたレリーフ
(アンコール・トム遺跡)

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