福井中小企業診断士協会

福井県の中小企業診断士が企業の経営をご支援します。 福井中小企業診断士協会

フリーレポート

進出先としてのカンボジアを考える

2016-03-10

 カンボジアの投資環境をどう捉えるべきかについて、現地ヒアリングの内容からまとめてみたい。
 今回、JETRO、JICA、CJCC(カンボジア日本人材開発センター)及びティナー・ファッション・カンボジア、ハル・プノンペンコミックセンターの5か所を訪問し、ほぼ共通の印象を受けた。

用地及び建物の取得
 外国人や50%以上外国法人が出資する企業は、土地の取得ができないが、中国人の中には、カンボジア国籍を取って土地を買う人も多く出てきているので、日本企業でも取得できる可能性は高い。
 土地の価格については聞いていないが、プノンペン郊外であれば比較的安く土地を取得できるようで、中国人の中には土地の値上がりを待ちながら事業を営んでいる企業も多く、事業での収益と土地の値上がりの両方をにらんでの投資も多いようだ。
 一方で、個人で工場の賃貸事業を行う人も増えてきており、建貸物件を探すのも初期投資を減らすことにつながるのではないか。
 今回訪問した、ティナーファッションカンボジアはカンボジア人のオーナーが持つ工場を賃貸で使用しているし、ハル・プノンペンコミックセンターも経済特区内の貸工場(前は日本の鞄メーカーが使用していた)を借りての営業をしていた。

法人税等
 輸出加工企業には、税制面での特典が多く、法人税は20%で、認可を取ると9年間は免税されることになっている。
 個人ビジネスの場合は、1年に1度確定申告をすることになっているが、この辺りはグレーで、ほとんどのカンボジア人は申告していないか、税務署と交渉して少額で済ませている可能性が高いという話だ。
 また、2015年より日本では、カンボジア製品には特恵関税が適用され、無税で輸入できるようになったことも、優位性を発揮できる材料となった。
 一方、アセアン自由貿易協定により、アセアン諸国内の関税撤廃により、保税倉庫をカンボジアに設置する動きも見られ、タイ、ベトナムなどの隣国をにらんで、カンボジアの立地が注目されている。

物流
 日本のODAで建設された「つばさ橋」によって、プノンペンとベトナム・ホーチミンやタイを結ぶ南部経済回廊が繋がったことで、北米等に向けたコンテナ物流で世界一になったホーチミン港へのアクセスの良さが注目されている。現在、日本とホーチミン港のコンテナ航路は片道2週間で、従来シンガポール経由でシアヌークビル港を結んでいた3週間から大きく短縮されている。
 政府が外資企業誘致に力を入れる経済特区(SEZ)は、カンボジア国内に34か所設けられているが、その中で整備が進んでいるのは8か所で、プノンペンSEZを始め、タイとの国境に近いポイペトやコッコン、ベトナムとの国境に近いマンハッタン、貿易港のシアヌークビルが進出可能性の高い地域で、いずれもタイやベトナムからのトラック輸送やメコン川を使った船便などで利便性が高い地域に限られているようだ。
 また、タイとの間で協定が結ばれ、通関手続きが1回で済むようになり、国境から20km以内であればトラックがそのまま積み替えなしで乗り入れられるなど、カンボジア国内への投資促進に向けた優遇措置が拡大しつつあることも、「タイ・プラス・ワン」としてのカンボジアの位置を高めている。

労働力の確保と質
 製造業が関心のある最低賃金は、2016年に140ドル(縫製業)となり、ほとんどの企業がこの水準に合わせている。金額でみると、東南アジア全体でみると低い方ではあるが、ベトナム・ハノイの水準とほぼ同じということで、生産性を考えると今のところベトナムに軍配があがる(政府が定める最低賃金は、ようやく上げ幅が落ち着きを見せている)。
 ポル・ポト時代に、教員を始めとする知識層が殺されたことで、1993年の独立以降、教育には力を入れているものの、教員の質が高まらず、識字率も65%程度と全般的に教育水準が低いことが、投資を考える上で大きな課題であり、30~40代の管理職層の人材が少ないのも現状では課題となっている。
 しかし、実際に採用している企業の話を聞くと、高校へは行っていなくても頭の良い人はいるし、手先の器用さは周辺国に負けないので、採用の際に見極めれば生産性を高めることは可能という意見も聞かれた。
 大学進学率は3%とまだまだだが、プノンペン市内では大学の設立が進んでおり、また大学の授業は英語で行われていて英語力の高い人材育成が行われているので、今後都市部においてはマネジメント人材の確保面での課題は少なくなるのではないだろうか。
 今回訪問したCJCCでは、日本語を学ぶ大学生に対して、日本企業の合同説明会を開催するなど、人材確保に向けた支援の面でも充実してきている。
 また、東南アジアで共通してみられる離職率の高さは、カンボジアでは比較的落ち着いているように感じられた。これは、①海外からの投資がまだ少ないこと、②農村部からの出稼ぎに対応した宿舎整備などが進んでいること、③家族的な雰囲気づくりに取り組む日本企業に対する従業員の満足度が高いこと、などが考えられ、訪問した企業でも「賃金差を目当てに中国系や韓国系の企業に移っても、しばらくすると自社に戻ってくれる」と日本企業の働き易さを感じているようだ。

駐在員の生活環境
 やはり、日本企業が進出するにあたって最も課題となるのが、駐在する日本人スタッフの生活環境ではないだろうか。
 これまで訪問したジャカルタ、ホーチミン、バンコク、プノンペンと共通して一番の問題は日本人駐在員の生活環境で、ジャカルタの工業団地では日系商社が食事つきのアパートをレンタルしていたが、それ以外では日本食を含めた環境が整った都市部に賃貸マンションを借り、車で1~2時間かけて工場へ通うといった生活を行っている。プノンペンSEZの進出企業でも、やはりプノンペン市内に居住し、1時間かけて車で通っているという。
 食事の面では、カンボジアにもイオンモールが開店したことで、日本の食品が購入できるようになり、環境も大きく変わったと駐在員全員から聞かれた。
 現在、プノンペン市内には200店を超える日本食店(経営はベトナムや中国系が多いようだ)があり、また中国系、ベトナム系、インド系の住民も多く、中国や韓国企業の進出、フランス統治の名残りもあって世界中の料理が食べられる街となっていて、治安の良さも含め、駐在員の皆さんにとっては「暮らしやすい都市」という印象のようだ。
 今回訪問したハル・プノンペンの駐在員の方は、今春には家族を呼び寄せる予定と話され、昨年から日本人学校がされたことも駐在環境の向上に大きく貢献しているようだ。

消費市場としての魅力
 カンボジアは、一人当たりGDPが1,000ドルと東南アジアの中でも低く、人口も1,530万人とベトナムやインドネシアに比べて少ないことも、これまで投資判断の中でマイナス要素として働いていた。
 JETRO等の訪問の際の説明では、「プノンペン市内では、平均月収は350ドルにまで伸びていて、家計で見ると月1,000ドル、年収では1万ドルを超える家庭も増えているので、車やバイクを買える人も増えているし、消費市場としても可能性が高い」ということで、イオンモールの出店も将来の成長可能性への期待を持って先行投資的なものと受け止められる。「マレーシアも25年前は、人口ではカンボジアと同じくらいであったのに、今ではイオンが100店舗出店するまでになったので、カンボジアも経済発展によって20年後には大きく成長している可能性が高い」とも付け加えた。
 確かに、プノンペン市内で見る自家用車は大型車が多く、最近ポルシェの販売店ができるなど高給車の販売も伸びているようだ。
 ホーチミンと比べるとバイクの数がまだ少ないように感じたが、今後更に増えていくことが予想され、東南アジアの名物となっている渋滞もいよいよカンボジアにも出現しそうである。
 余談ですが、今年からカンボジアでは250cc以下のバイクは免許が必要なくなり、交通ルールを知らない人の運転が増えることで交通事故の増加を懸念する声が多く聞かれた。今でも、交通事故での死者が年間2,000人を超える状況で、運転マナーが悪い土地柄なので、プノンペンを訪問される方は、十分注意をしてください。

 人件費の高騰するタイや人員確保が難しくなったホーチミンと比較し、まだワーカーを採用しやすい地域ではあることは確かで、一方で特徴的なのは、福井県企業の進出では、中国に工場を持つ企業が多く、その技術者を指導役に活用している点は、カンボジアへの進出を考える上で大いに参考になるのではないでしょうか。

(峠岡伸行)

Photo

ティナー・ファッション・カンボジアは
プノンペン郊外の貸工場を利用

Photo

プノンペン経済特区の
ハル・プノンペンコミックセンター

Photo

プノンペンSEZ内のコンテナヤード

Photo

ティナーファッションで働く女性工員

Photo

CJCCで開催された交流イベント

Photo

イオンモールの食品売場では
鍋セットが

Photo

日系和食店でのてんぷら定食

Photo

大型四駆車が多くみられる通勤風景

一覧に戻る

ページの先頭へ