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ベトナム・ハノイの製造業(特に機械工業)の状況について(ベトナム視察研修報告)

2017-03-02

 ベトナム北部は日本からは1990年代に進出したトヨタ・ホンダ(当時、ベトナム政府の指導により、開発の遅れていたベトナム北部に誘導されたといわれている)、最近のキャノン・パナソニック・HOYA・デンソー等々の大企業が、また韓国からは液晶ディスプレイの大手LG電子・Galaxyを製造するサムスン電子の巨大工場が進出するなど、注目の経済地域となっている。
 理由としては、南北経済格差の解消を意識するベトナム政府がここ数年、北部の産業インフラの整備に努めており、また、世界の部品基地である中国:深圳など広東省との近さもあって、チャイナ・プラス1として日本や世界の企業の関心も北部ハノイ周辺に向かっている。しかし、その北部の産業的な基礎はどうなっているのか、ベトナムに進出した訪問企業を視察した印象を述べる。
 まず2011年にタンロン工業団地内の貸工場に進出したY. H SEIKO VIETNAM JSC(㈲吉中精工)の現地子会社を訪問した。親会社自体も福井市に本社のある従業員10名程度の典型的な零細企業である。資本金89 万ドルでスタートし、100 t以下の小物精密インジェクション金型の設計・試作・成型を中心に事業展開を進めており、現在従業員約30名、親会社の実習生として日本で金型を学んだ1期生を工場長として、売上高約1億円、ベトナムに進出する住友電装などの大手企業や自動車産業の中小企業10社と取引がある。
 Y. H SEIKOの属する金型産業は「産業のコメ」といわれ、製造業の国間や地域間のレベルを比較するうえで最も基礎的な指標となるものである。親会社の吉中精工も福井県内で唯一(社)日本金型工業会に所属するものの、技術水準としては一般的な金型零細企業であり特に技術力が高いという企業ではない(吉中社長談)。福井県も産業構成としては金型産業が極端に少なく製造業の基礎体力は弱いということでもある。
 ハノイ市内の道路は「HONDA」のバイクで埋め尽くされている。ベトナムでは「HONDA」はバイクの一般名詞となっているが、2000年頃に日本製のコピーの廉価な中国製のバイクが大量に流入してきた。その後、10年ほどで日本製の良さが再評価され、中国製はほとんど駆逐されたようであり、今回もハノイの街ではほとんど見かけなかった。
 こうした廉価コピー騒動を契機に、部品を安くベトナム現地で調達できないかが模索され、大企業の部品企業も多数進出してきているが、やはり多くの部品は日本や中国・タイなどからの輸入に頼っている。元来農業国で、工業的技術の基礎のないベトナムでは、一定の技術レベルを備えた地元企業の育成は極めて困難である。
 では、南部ホーチミンと北部ハノイ機械工業の差はどうか。南部では、しっかりとした機械工業の基礎はないものの、多数の日本企業を始め世界の企業が進出している。もちろん、それに続いて、今回FBCハノイ2017ものづくり商談会(Factory Network Business Expo 2017)に出展していた眼鏡部品メーカーであるFukuokarashi Vietnam (鯖江市のフクオカラシの現地子会社:南部Dong Nai県に進出)のような中小企業の部品工業も南部進出している。
 また、ホーチミン市郊外の幹線道路沿いには建設機械やトラックなどの修理工場などがひしめいている。南部デルタ地帯に向かう道路にはクボタなどの農業用トラクタの販売店兼修理工場もズラリと並んでいる。またホーチミン市街の一画がバイクの部品販売兼修理工場となっている地区もあり、多少は機械工業の入口としての機能はある。
 しかし、北部ハノイにはこうした修理工場のようなものもほとんど見当たらない。ハノイ―ハイフォン間120kmを往復したが、2月は北部では田植えシーズンに当たり、田植えがこれからという水田を見かけたが、農耕用の水牛・牛であろうか、田圃で草を食む姿が目についたが、農耕用のトラクタをほとんど見かけることはなかった。見かけても非常に古い機械である。田植えはほとんど手作業で行われており、機械田植えもほとんど見かけなかった。
 農業の機械化はほとんど進んでおらず、日本の40~50年前の姿である。北部は南部以上に機械工業の基礎が薄いと思われる。南部地域の進出企業が技術的には浮島的なものであるとするならば、北部地域にとってのキャノンや韓国サムスンの巨大工場は地域産業とは全く分離された飛行船のような存在といえる。
 このように、技術的基盤が全くないため、政府組織の末端では「産業のコメ」としての機能を全く理解しておらず、Y. H SEIKOも当初、日本から金型部品を輸入しようとした際、部品を『金型』として認定してもらえず、単なる『鉄の塊』として高率の関税を掛けられることなどが起きている。日本では普通の零細金型企業であるが、しかし、ベトナム政府もようやく裾野産業の意義を理解し始めたようで、2016年に商工省から「優先発展裾野産業」として京セラと同様の『ハイテク産業』として認定されることとなった。
 また、2005年にハイフォン・ディンブー工業団地(ベルギー系資本)に進出し、船舶のプロペラを製作するNakashima Vietnam(親会社は岡山県の企業:ナカシマプロペラ:船舶用プロペラでは世界トップのシェアをもつ)は鋳造工程→機械加工工程→仕上工程までの一貫生産を行っている。世界各国の造船の規格に合わせた直径1m~4m程度の中型のプロペラを生産している。
 フィリピンの工場、日本の工場と合わせて、国際分業の一環としての位置づけである。したがって、注力点はもっぱらワーカーの作業効率をどう上げるかにあるようだ。
 どうしても確認作業が多く、作業時間は日本の2倍となっている。ベトナムでは多能工化を目指すのではなく単能工でいかにその作業に特化して熟練度を上げられるかに絞っているようである。裾野産業の育成は努力中であるが、裾野産業は急いでは育たない。中国南部もそうだったとし、少しずつ段階的に進んでいくしかないという尤もな意見を頂いた。
 Nakashima Vietnamのプロペラの機械加工工程では機械の周りを仕切板で遮蔽していたが、切削クズが周囲に飛んでケガをしないように、また、不用意に他の作業員が機械に近づかないよう作業の安全管理の面が主要である。
 しかし、20台の監視カメラが工場内にあり、作業員の管理もあるが、窃盗対策でもあるという話を聞くと、価格の高い銅の切削クズを窃盗されないための対策の意味もありそうだ。船舶プロペラは銅合金で作られているが、銅価格は700,000円/t程度であり、鉄のH鋼の場合は75,000円/tと約10倍の価格差がある。こうした、仕切板もあり、また普通、鋳造工程などは砂でかなり汚れているものであるが、Nakashima Vietnamは各工程とも綺麗に整理・整頓されている。

(和田 龍三)

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タンロン工業団地に立地する
パナソニックの工場

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金型製作に集中する
実習1期生だった工場長

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ハノイ市内の歩道に並ぶ「HONDA」

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ハノイ近郊の田植風景・中央左側に
耕運機(トラクタ)が見える

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Nakashima Vietnamの
船舶用プロペラのモニュメント

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