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調査研究レポート

中小企業の資金戦略のあり方 ―実態に即した分析― 第2章

中小企業診断士 神尾修二

第2章 実態に即した支払能力の分析のあり方

一般に企業の支払能力を分析するに当たっては、決算書から流動比率や当座比率を求めたりすることや、キャッシュフロー計算書の作成が考えられている。しかしながら、決算書のこれらの比率やキャッシュフロー計算書は、経営結果の分析に主体があり、中小企業が手軽に資金繰り上の支払い能力を把握したり、計画するには最善な手法とはいえない。中小企業が実態に即した自己の支払能力を把握するには、損益分岐点分析に一定の加工を下すことで簡単に行うことができる。

1.収支分岐点
企業の支払い能力を計るには、損益分岐点をベースとした収支分岐点分析により行うことになるが、この収支分岐点は企業の経常的収入と経常的支出がちょうど一致することになる売上高のことをいう。
収支分岐点を求める計算式は、基本的に次の通りである。これは多くの文献に取り上げられているものである。
  収支分岐点=(固定費支出-期首運転資金)÷(限界利益率-運転資金率) 1)
ところが、収支分岐点として次のような計算式が用いられることがある。
収支分岐点={固定費+(借入金返済額-減価償却費)÷(1-税率)}÷限界利益率 2)
いずれの計算式も、損益分岐点を求める計算式がベースにされている点は同じであるが、前者は税負担が考慮されていないため、実務上は余り有効な分析手法とはいえない。したがって、後者の計算式を用いた方がベターである。以上の理由から、ここでは後者の計算式について、より実態に即したもとするためにはどうすべきかについて考察する。
なお、ここで取り上げる計算式はより実態を反映し易いものであり、前者のものと区別する意味でも、特に「資金繰り分岐点」と呼ぶことにする。

2.資金繰り分岐点
資金繰り分岐点をこのまま実務に活用した場合、公私混同を前提として資金繰りが維持されるといった傾向が強い中小企業には、実態からかけ離れたものとなる虞がある。したがって、公私が綯い交ぜとなった現実を取り入れた資金繰り分岐点を求める必要がある。それが次に示す計算式である。
資金繰り分岐点=(固定費+借入金返済額-減価償却費+生活費+前期分税負担額)÷限界利益率
この計算式が前のもの違うのは、生活費を考慮した点と税負担額を単に「(借入金返済額-減価償却費)÷(1-税率)」とせず、しかも税負担額を今期ではなく前期分としている点である。以下、それぞれの項目について検討を加える。
(1)固定費
固定費は今期分の固定費予定額であり、引当金の繰入・戻入など減価償却費以外の収支を伴わない費用・収益は除いて計上すべきである。又、期首と期末の未払い分を加減する必要がある。
(2)借入金返済額
今期の借入金返済予定額を計上することになる。したがって、証書借入による長期借入金は金融機関からの返済予定表に基づき、今期返済分を計上する。手形借入は返済期日が1年以内であることから会計処理上は短期借入金とするが、実務上は書換えを継続して実質的に長期借入金と変わらないことが多い。こんなケースでは、実際の返済計画額を計上すべきである。又、役員借入金も実際の返済計画額を計上することになる。
(3)減価償却費
資金繰り分岐点を計算する上で、減価償却費は固定費に含まれているので、償却方法の違いによる減価償却費の多寡は固定費と相殺されることになる。
(4)生活費
生活費は、公私(いわゆる店と奥の関係)が混然一体となって資金繰りが維持される傾向が強い、個人企業の場合に計上すべきものである。その際に、白色申告の場合の事業専従者控除額又は青色申告の場合の青色専従者給与額は、生活費のマイナス項目として考慮する必要がある。なぜなら、事業専従者控除額や青色専従者給与額は経費として固定費に含まれていることと、実際にはこれらが事業主の税負担軽減を目的に所得調整の手段とされる傾向が強いからである。つまり、ここでは生活費を事業主と生計を一にする家族を含めたところで捉えることとする。なお、地代収入などの事業外収入があれば、これもやはり生活費のマイナス項目として併せて考慮する必要がある。
生活費は法人企業の場合は計上する必要はない。ただし、実質が個人企業と変わりないような法人にあっては、代表者やその家族が会社から支給を受ける役員報酬や賃金給料などが生活を維持するに足りないようであれば、その不足分を生活費として見積計上する必要がある。
(5)前期分税負担額
税負担額を単に「(借入金返済額-減価償却費)÷(1-税率)」としないのは、以下に示すようにケースによって税負担額に大きな差が出ることと、「借入金返済額-減価償却費」をそのまま課税所得とすれば、実際のものとかなりかけ離れることになるからである。それよりも、資金繰り分岐点を算出する段階では、すでに、確定申告により前期分の税負担額が確定しているので、税負担額を求める計算を資金繰り分岐点の計算式に取り込む必要がないのである。
なお、法人企業の場合において各税を未払い計上して固定費に取り込んでいるものがあれば、重複することになるので(1)で指摘したように、その調整が必要なことはいうまでもない。
1.法人企業の場合3)
(イ)課税所得がない場合
地方税(法人都道府県民税と法人市区町村民税、以下同じ)均等割
(ロ)課税所得がある場合
    法人税+法人事業税+地方税法人税割+地方税均等割
2.個人企業の場合4).5)
(イ)所得の合計≦(住民税の所得控除合計額+青色申告特別控除額)、かつ、≦個人事業税の事業主控除額の場合
    住民税(都道府県民税と市区町村民税、以下同じ)均等割
(ロ)所得の合計≦(住民税の所得控除合計額+青色申告特別控除額)、かつ、>個人事業税の事業主控除額の場合
住民税均等割+個人事業税
(ハ)所得の合計>(住民税の所得控除合計額+青色申告特別控除額)、かつ、≦個人事業税の事業主控除額、かつ、≦(所得税の所得控除合計額+青色申告特別控除額)の場合
住民税所得割+住民税均等割
(ニ)所得の合計>(住民税の所得控除合計額+青色申告特別控除額)、かつ、>個人事業税の事業主控除額、かつ、≦(所得税の所得控除合計額+青色申告特別控除額)の場合
住民税所得割+住民税均等割+個人事業税
(ホ)所得の合計>(住民税の所得控除合計額+青色申告特別控除額)、かつ、≦個人事業税の事業主控除額、かつ、>(所得税の所得控除合計額+青色申告特別控除額)の場合
住民税所得割+住民税均等割+所得税
(ヘ)所得の合計>個人事業税の事業主控除額、かつ、>(所得税の所得控除合計額+青色申告特別控除額)の場合
住民税所得割+住民税均等割+個人事業税+所得税
(6)限界利益率
限界利益率は次の計算式により求められるが、今期において計画されたものに、変動費と売上高の期首・期末の未払・未収を 加減する必要がある。
限界利益率=1-変動費÷売上高

3.支払能力
以上の考察をベースとして、資金繰り分岐点を実際に達成可能な売上高に、借入金返済額を支払能力にそれぞれ置き換えれば、 次のように支払能力を求める計算式を導くことができる。
資金繰り分岐点=(固定費+借入金返済額-減価償却費+生活費+前期分税負担額)÷限界利益率
 ↓
達成可能売上高=(固定費+支払能力-減価償却費+生活費+前期分税負担額)÷限界利益率
 ↓
支払能力=達成可能売上高×限界利益率-(固定費-減価償却費+生活費+前期分税負担額)

なお、支払能力を高めるためには次の方法が考えられる。
1.達成可能売上高を引上げる。
2.限界利益率を引上げる。
3.固定費(減価償却費を除く)を引き下げる。
4.生活費を引き下げる。
5.前期分税負担額については、確定申告の段階までで節税を考える。

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