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調査研究レポート

中小企業の資金戦略のあり方 ―実態に即した分析― 第3章

中小企業診断士 神尾修二

第3章 実態に即した借入能力の分析のあり方

1.倒産分岐点
企業の資金管理については、長島俊男亜細亜大学教授が考案したもので、倒産分岐点という分析手法がある6)。
倒産分岐点とは、倒産分岐点より借入金が多くなれば倒産に至る危険性が高く、借入金が倒産分岐点以下であればその危険性が少ないというものである。したがって、倒産分岐点は倒産分岐点借入高又は借入限度額ともいうことができる。
ここでは借入能力の分析が主題であるので、以下、「借入限度額」ということにする。

2.借入限度額
借入限度額は、次の計算式により求めることができる。ここでも経常損益段階における考察とし、臨時的な項目である特別損益は考慮していない。
借入限度額=(営業利益+営業外収益)÷借入金利率
借入限度額は、借入金残高を基準とする損益分岐点ともいうことができる。つまり、借入限度額よりも借入金が多くなれば、
「(営業利益+営業外収益)<支払利息」となり経常損失を計上することになり、借入限度額よりも少なければ、
「(営業利益+営業外収益)>支払利息」となり経常利益を計上することになるからである。このことは、この計算式を次の ように組み直してみると理解し易いものとなる。
  借入限度額×借入金利率=営業利益+営業外収益
資金繰り上は、支出の伴わない費用である減価償却費相当額が借入金の返済原資となるので、借入金残高がちょうど借入限度額と同額の場合、返済すべき借入金が減価償却費以内であれば資金繰りを維持できるが、減価償却費を超えるようであれば維持できなくなる。
なお、企業の借入能力を測定する場合、重要な判断材料としてその企業の担保能力や保証人の条件がある。いわゆるバブル期に企業の借入能力を超えて過剰な融資がされたが、あれは金融機関が企業の担保能力や保証人の保証能力を異常に高く評価し、緩い条件で融資を実行したことに原因がある。結果、金融機関が正常な担保能力・保証能力評価に戻った今、その不足が表面化し、不足分の担保確保に躍起となってきているのである。
いずれにしても、ここではこのような担保や保証といった借入のための条件は、借入限度額の算出の要件にはしない。
借入限度額を一律に論ずるには、これらの要件を除かないことには無理があるからである。
さて、先に示した借入限度額の計算式は次のように手を加えることで、より実態に即したものとなる。
  借入限度額={(営業利益+営業外収益)-(生活費+税負担額)}÷借入金利率
(1)営業利益
営業利益は、計画された営業利益である。
(2)営業外収益
営業外収益を計画する場合には、支払利息以外の営業外費用をマイナス項目として考慮する必要がある。なぜなら、営業外費用は借入金に対する支払利息以外にもいくつかの項目があるので、これらを考慮する必要がある。
(3)生活費
生活費については、第2章で説明したように個人企業について考慮すべきもので、さらに実態が個人企業と変わらないような法人企業でも考慮すべきである。その内容は第2章で論述した通りである。
(4)税負担額
税負担額については、第2章で示した通りである。ただし、ここでは原則として前期分の税負担額ではなく、当期分の税負担額を見積もって計上する点が相違することになる。なお、税負担額の中で経常損益計算までの段階で既に考慮されたものがあれば、その分重複しないよう調整する必要があることはいうまでもない。
(5)借入金利率
ここで用いる借入金の利率は、既存の借入があるかないかで次のように異なる。
1.借入がない場合
  新規に借りようとする借入金の利率による。
ただし、手形借入など借入期間が1年未満の場合には、借入期間を考慮し調整する必要がある。
2.借入がある場合
  既存の借入の金利と新規に借りようとする借入の金利を、それぞれの借入金額と借入期間に応じて加重平均により求めた利率による。

 借入限度額を大きくするには次の方法がある。
  1.営業利益を引上げる。
  2.営業外収益を引上げる。
  3.生活費を引き下げる。
  4.税負担額を引き下げる。
  5.借入金利率を引き下げる。

なお、減価償却費が支出を伴わない費用であることに着目すれば、借入限度額を求める計算式は次のようになる。
  借入限度額={(営業利益+減価償却費+営業外収益)-(生活費+税負担額)}÷借入金利率
これによれば、借入限度額はアップするものの限度一杯に借入れした場合、借入金の返済原資が出てこないため借入金残高が減ることはなくなる。

3.借入金月商倍率
長島教授は、借入金月商倍率という分析手法も考案している7)。
借入金月商倍率とは、借入限度額を月平均売上高の何倍であるかに置き換えてみたもので、借入限度額をベースとして月別売上計画を策定するのに有効となる。計算式は次の通りである。
  借入金月商倍率=(借入限度額÷売上高)×12

したがって、借入残高が「月平均売上高×借入金月商倍率」を超えるようなことになれば、その企業は危険ということになる。

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