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調査研究レポート

中小企業の資金戦略のあり方 ―実態に即した分析― 第4章

中小企業診断士 神尾修二

第4章 実態に即した現金預金への資金運用のあり方

1.流動資金の固定化
中小企業は、必要以上に現金預金の保持にこだわる傾向がある。なかんずく、定期預金や定期積金などへの資金の固定化には 積極的との観が否めない。
その理由として挙げられるのは、「取りあえず持っていれば安心」「いざというときのため」「金融機関が融資してくれたが 遣い途がない」、といったことである。
定期預金や定期積金は固定性預金と呼ばれるように、それまで流動していた資金を固定化させるものである。資金が固定化するということは、その分だけキャッシュフローの量を少なくし、資金繰り悪化の原因となる。無借金経営ならば余剰資金の一時的な運用手段として考えられるが、資金繰りを借入金に頼っている場合には、貴重な資金の流れを止めることとして薦められることではない。

2.不必要な借入
金融機関が融資をしてくれる場合においても、必要以上に借りることはしてはいけない。必要以上に得られた資金は、定期預金や定期積金に運用される可能性が高い。
これらの預金への運用で利息収入を得ることはできるものの、低金利の今それは僅かである。逆に借入額が増加することで利息収入以上の支払利息の負担を招き、収益性を悪化させることになる。当然のことながら借りた資金には返済が伴う。
定期預金や定期積金への資金運用で資金繰りを圧迫し、さらに借入金の返済がこれに追い討ちをかけることになる。
正に悪循環であり、結果、資金繰りの破綻を招く虞がある。いわゆるバブル期にはこれも資金戦略の一環として許される部分があったが、バブル崩壊後の不況期の今は必要以上の借入はしてはならない。
中小企業が資金繰りを維持する上で、まず取るべき策は、固定化された資金の流動化である。そのことが、新たな借入を阻止し、次への資金の固定化を防止することになるのである。

3.事例の検討
これらの事実を確認するために、中小企業の決算書の実例から現金預金と借入金の残高並びに受取利息と支払利息を比較してみたのが、図表1である。
ここで取り上げたのは、借入金残高に対し現金預金の残高の割合が50%を超えているものである。分析に当たっては、借入金残高から現金預金残高を控除したものを実質借入とし、借入金残高に対する現金預金残高の割合を現預金運用率としている。
さらに、支払利息から受取利息を控除したものを実質利息とし、実質利息の実質借入に対する割合を実質利率としている。
この分析によれば、どの企業も借入によって調達した資金を現金預金として運用することにより、異常に高い金利負担を強いられていることが明確に分かる。中小企業が必要以上に借入をし、それで得た資金を現金預金に運用することで、余分な支払利息を計上することになり収益性の悪化を招くという構図である。借入は設備投資計画や資金繰り計画の上で必要最小限に抑えるべきであり、余分な借入をしてその資金を何ら収益性の向上に貢献しない現金として保有したり、定期預金や定期積金にして固定化してはならないのである。
次に各社の実態を診てみよう。
図表1 (単位:千円)


(1)
現金預金
(2)
借入金
(3)
実質借入
((2)-(1))
(4)
現預金運用率
((1)÷(2))
(5)
受取利息
(6)
支払利息
(7)
実質利息
((6)-(5))
(8)
実質利率
A社
154,142
58,581 -95,561 263.1% 131 1,662 1,531 -1.6%
B社 19,085 20,263 1,178 94.2% 6 568 562 47.7%
C社 29,913 33,701 3,788 88.8% 103 2,283 2,180 57.6%
D社 50,758 59,403 8,645 85.4% 120 1,902 1,782 20.6%
E社 49,769 80,095 30,326 62.1% 808 2,048 1,240 4.1%
F社 106,355 183,026 76,671 58.1% 486 5,089 4,603 6.0%
G社 44,084 79,921 35,837 55.2% 33 2,945 2,912 8.1%

 (備考)平成10年9月期~平成11年3月期決算による。

(1)D社の場合
D社は借入金59,403千円を、1,902千円の利息負担で調達している。
その利率は3.2%(=1,902千円÷59,403千円)である。
調達した資金はその内50,758千円が現金預金として運用されている。これに対する受取利息は120千円で、その利率は0.2%(=120千円÷50,758千円)である。仮に現金預金への資金運用がなければ、実質的に必要となる借入金は8,645千円(=59,403千円-50,758千円)で済むことになる筈である。
一方でD社は59,403千円の借入をすることで1,902千円の支払利息を支出し、50,758千円の現金預金への運用で120千円の受取利息を得ているから、実質的な利息負担額は1,782千円(=1,902千円-120千円)となる。
したがって、この実質的な利息負担額1,782千円は実質的に必要な借入金8,645千円に対して20.6%(=1,782千円÷8,645千円)の利率となる。結果、借入を実質的に必要な8,645千円にし現金預金への運用を抑えれば、利息負担額は276千円(=8,645千円×3.2%)で済んだことになる。実質利息負担額1,782千円と、借入を実質的に必要な8,645千円にした場合の利息負担額との差額は1,506千円(=1,782千円-276千円)である。
すなわち、D社は50,758千円の現金預金への資金運用を借入によったために、1,506千円の利益を逸失してしまったのである。「取りあえず持っていれば安心」の筈の現金預金が自社の収益性を阻害し、資金繰りへの圧迫を招いていることをD社は認識する必要があろう。
(2)A社の場合
A社の場合は、現金預金の残高が154,142千円で、受取利息が131千円であるから、その利率は0.08%(=131千円÷154,142千円)である。一方で、借入金の残高が58,581千円で支払利息は1,662千円であるから、その利率は2.84%(=1,662千円÷58,581千円)である。仮に借入金を全額返済したとしても95,561千円(=154,142千円-58,581千円)の資金が残ることになる。したがって、支払利息1,662千円は負担する必要はなくなる。返済に充てた現金預金58,581千円に対する受取利息46千円(=58,581千円×0.08%)は減少するから、負担の必要がなくなった支払利息1,662千円から、この受取利息の減少額を差し引いた1,616千円(=1,662千円-46千円)が、実質的な利息負担の減少額となる。A社はその事業特性から、売掛金と受取手形からなる売上債権の貸し倒れの危険性を常に孕んでいる。そのため、自社の経営方針として長年にわたり、多額の遊休資金の保有を実践してきている。その資金確保の手段を借入によってでもである。正に「いざというときのため」の現金預金の保有である。
しかし、そのために本来なら必要のない金利負担を強いられ、しかもそれが長年にわたっていることや、ここ5~6年は大きな貸し倒れが発生していないことを思えば、収益性の悪化と資金繰りの圧迫を招く借入金の一掃に前向きに取組むべきと考えられる。

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