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熊本が進める魅力あふれるまちづくりに学ぶ

2012-06-08

 熊本は、九州新幹線の全線開業という追い風を受ける中で、まちづくりを進めてきたわけだが、期待以上に、福井のまちづくりを考える上で参考になる要素が多かったというのが正直な感想である。熊本県は郊外に阿蘇山などの観光地を有するものの、市中心部で全国区と言える観光資源は、加藤清正による芸術的な石垣の残る熊本城、やや離れて水前寺公園ぐらいである。熊本城は、他の名城と比較してもその敷地が広大で、熊本城を訪れた観光客を市街地に誘引することを考えた場合にはマイナス要因ともなる。そのような悪条件を押しのけるべく熊本では、市街地に観光客を誘引し、楽しませることを狙って戦略的なハード面、ソフト面のまちづくりが進められていると感じた。

 ハード面では、まずは観光客の誘引ポイントである熊本城そのもののレベルアップ。西南戦争時に消失してしまった本丸御殿など本格的な復元を進めている。資料の検証をもとに忠実に復元しようとしている姿勢が感じられるもので、要所に配されたガイドの説明も丁寧で、本格的な歴史ファンのニーズにも応えられる本物志向のハード整備と言える。

 次に、その熊本城と熊本の中心市街地を橋渡しする拠点としての「城彩苑」の整備。ここは、市街地から郊外までの観光案内全般を行う「総合観光案内所」という案内機能、熊本城や熊本の歴史や文化を体験型で学べる「湧々座」という学習・体験機能、江戸時代の町家のたたずまいを再現した「桜の小路」という飲食物販機能という3つの機能を担っている。「湧々座」は「水」をテーマに熊本の歴史と文化を紹介しており、このような体験型施設は各地に多くあるが、楽しみながら学ぶことを意識した構成やガイドのレベルは非常に高いと感じられた。熊本城を訪れる観光客の多くをこの「湧々座」や「桜の小路」に寄らせることで、熊本という街自体への興味を高めることができている。

 そしてソフト面であるが、ここ「総合観光案内所」を起点として、城下町熊本をガイドの案内でゆっくり歩いて楽しむ「くまもとさるく」が行われている。今回我々は歴史と文化を紹介する内容である「上通さるく」を体験した。熊本城の築城から明治に至る歴史、加藤清正や福井ゆかりの横井小楠などの定番の解説から、忽然と大楠の並木が現れるオークス通りの由来や、老舗の和菓子屋から最近話題のケーキ屋の案内まで、2時間弱の街歩きは、これまた想像以上に好奇心をくすぐられる、楽しいものであった。このルートは繁華街の中心となるアーケード街とは一線を画す、和洋・新旧の建築・店が非常にいい雰囲気で交わるショッピング街だったこともあり、まち歩きには最適という印象を持った。夜も楽しいであろうと感じさせる街であった。百貨店や大手資本がそろう繁華街の隣にこのような静かで楽しいショッピング街が広がることにより、熊本中心市街地の魅力向上につながっている。そして、この「さるく」というガイドの仕組みがあるからこそ、その街の魅力を存分に楽しめたと言える。一つ一つは見逃してしまいそうなものをコースで案内することで非常にインパクトのある“商品”になっている。

 また、当日はたまたま熊本を代表する祭りである「肥後の馬追い」だったせいもあり、若者を中心とする地元の人達により、中心市街地は大変な混雑であった。中心市街地が中心市街地として機能していることにより、熊本の街の魅力は一段と強いものに感じられた。

 ハード面の戦略的な整備、一つ一つの小さなストーリーを紡ぐことでインパクトのあるストーリーに仕上げるソフト事業。どの街にも求められると思われる現代の街づくりの王道、基本形を、熊本で体感できた。県都福井市を始め、県内全てのまちづくりを考える上で非常に勉強になる視察であった。(川嶋正己)

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桜の小路「城彩苑」

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明治の並木が残るオークス通り

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上乃裏の民家を活用した飲食店

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