2014-3-31
1 ホーチミン市の交通状況
ベトナムではバイクのことを「ホンダ」と呼ぶ。ヤマハやスズキも進出しているが、ホンダのシェアが64%と圧倒的であり、日系3社計では8割を占める。バイクの販売台数は年間330万台、登録台数は3,700万台ということで、2.4人に1台ということになる。その割には2人乗車が多く、子供をのせた場合3、4人乗車もかなり見かける。歩行者が道路を横断しようが止まる気配は全くなく、赤信号の時には歩道をショートカットするなど交通マナーは最悪で、交通事故も多く、政府は2013年にバイクの登録台数を3,600万台に抑える総量規制を定めた。
一方、四輪車の販売台数は10万台前後で足踏みしており、そこに14社がひしめいている世界一競争の激しい市場である。街中を見回しても、トヨタが若干多そうに見えるものの、日本車では日産・マツダ・ホンダ・スズキ…、韓国の現代・起亜、プジョー・GM…等々多種多様である。
ホーチミンでは一人当たり年間所得が3,000USドルを超えたといわれており、そろそろモータリゼ―ションの入口に差し掛かったといわれるが、日本の自動車メーカーは10万台前後の市場規模で採算が取れるのか、また、東南アジアの自動車生産拠点であるタイや中国広東省に近いことから、完成車を直接入れたほうがよいのではないかなど思案中である。ベトナム政府としては産業振興の核として、また、裾野産業の育成の観点からも、部品点数3万点以上といわれる自動車産業を誘致したいところであろうが、今後の東南アジアの自動車産業の展開次第である。
ホーチミン市における市民の主な交通手段はバイクであるが、その他にも路線バスがあるが、800万都市としてはあまりにも貧弱である。バスターミナルも定かでなく、また、乗車客も少ない。二輪車保有台数が急増し、四輪車も富裕層を中心に微増するなかで都市部の慢性的渋滞は日常化しており、高速道路の整備や2018年に6路線が完成するという地下鉄建設計画が始まりつつあるものの依然として交通網の整備は圧倒的に遅れている。
そもそも二輪車の道路占有空間は四輪車の1/10程度であり、近い将来、モータリゼ―ションにより二輪車から四輪車に乗り換える需要が大量に発生した場合、ホーチミン市の都市機能は交通渋滞により完全に麻痺してしまうことが予想される。
今回訪問した県内進出企業はホーチミン市から1時間~1時間半の通勤距離内の郊外の工業団地に立地し、日本からの経営幹部や現地スタッフの多くは市内アパートから通勤しており、大きな影響を被ることとなる。
また、路線バスがあるにもかかわらず、これだけの人口規模の都市で乗降者が少ないということは、バイクの便利さに慣れて公共交通を利用するという習慣が身についていない、あるいは薄れつつあるのではないか。バイクの場合、時間帯を気にせず、ドアtoドアの移動が可能である。
路線バスはエアコン付きで車体も新しく市内5,000ドン(25円)の同一料金ということであるが、停留所まで歩く必要があること、時間帯も定かではないこと、渋滞に巻き込まれること、夜21時以降は極端に路線が少なくなることなど不便さが多々ある。
インドネシア・ジャカルタ市との比較では、ジャカルタ市では既にモータリゼ―ションが始まっており、ものすごい渋滞ではあるが、公共交通機関としてはバス専用レーンが中心部に1本あること、市民の足としての路線バスは本数も多くしっかりしていることなど、公共交通の体系としてはホーチミン市よりはかなりましである。バイクがここまで普及すると公共交通機関への乗り換えを習慣づけにはかなりの困難を伴いそうである。
2 幹線の整備状況
国道1号線は北部ランソン省の中国国境の町・友誼関からハノイ市→ホーチミン市→ベトナム最南端のカマウ省カマウ市までを結ぶ全長2,301kmの国道である。片道3車線はある広い道路でありよく整備されており、アジアハイウェーの一部ともなっている。
アジアハイウェーの南部回廊はホーチミン市からカンボジア・プノンペンを通りタイ・バンコクに抜けている。大型トレーラーが数多く走っている大幹線道路である。訪問企業の日華化学(ニッカベトナム)とフクビ化学工業ベトナムのあるアマタ工業団地はホーチミン市の東ドンナイ省のこの1号線沿いに立地している。
一方、第一ビニールのDAIM VIETNAMは13号線を北上したビンズオン省に立地している。13号線は、車幅は広いものの路面舗装は平坦とまではいかず、かなり乗り心地は悪い。
1号線をホーチミン市から南に下り1時間半、メコンデルタの入口であるミト―市まで足を延ばしたが、ホーチミン市からミト―まで1号線沿線はだらだらと市街地の延長のように建物が並び、メコンデルタの広大な水田という風景は期待できない。建物と建物の隙間の僅かな空間から水田が覗える程度である。
1号線を少し離れてミトー市からティエンザンとタイソンの2つのメコン川支流(メコン川北側の支流)を横切り、ベンチュ省を結ぶ斜張橋形式のラックミエウ橋がある。アプローチランプを含めた全長は8,331メートルあり、メインブリッジは2,868メートル、メコン川支流を1万トン級の船舶が航行できる。
この他、カントー市にはメコン川最大の支流ハウ川(メコン川南側の支流)にかかる全長は2,750メートルのカントー橋(建設中に崩落事故を起こしている)が整備されており、ハノイ-メコンデルタ迄のベトナム国道1号線の南北縦貫プロジェクトが完成し、幹線道路の整備はかなりの程度進んでいることが窺える。
一方、鉄道の方はあまりにも貧弱である。サイゴン駅からハノイ駅を結ぶ総延長1,726kmの南北線は全て非電化・単線である。サイゴン駅からハノイ駅まで1日6本の列車が走るというが、あまりの少なさに、ホーチミン市内では、ほとんど踏切がどこにあるのかさえわからず何度もシャッター・チャンスを逃してしまった。
南北を結ぶ日本の援助による新幹線計画や2020年までのホーチミン市近郊インフラ整備計画などもあるが、ホーチミン市の鉄道の現状を見る限りでは近郊からの通勤電車などは夢のまた夢である。
3 今後のベトナム南部の工業的発展の可能性
ホーチミン市周辺の工業団地への企業進出は、地域の産業とは全く離れた「孤島」的な立地である。日華化学の主原料の全ては台湾・韓国の日華化学子会社より入れている。その他の原料も米国やシンガポールなどからの輸入品となっており、ベトナムには石油化学プラントはない。裾野産業というものが周辺に存在しないため、工場としては宙に浮いているといってよい。
日華化学の反応窯は台湾製・最重要部分のモーターはヨーロッパ製である。ただし、反応窯や配管などの溶接は地元の業者が行っている。メンテナンスも地元の業者が入っており、SUSの溶接などもしっかり行っており、技術的にはまずまずのように見受けられる。
第一ビニールの主原料の樹脂は中国・マレーシア・シンガポールから、造管用のコイルは中国・韓国・タイから供給されている。但し、包装用の段ボールは地元から供給されており、中国製のものと比較しても丈夫しっかりしており、表面の印刷もきれいに仕上がっている。フクビ化学も同様で、原料調達が難しくコストメリットを出せないとしており、原料は日本やタイから供給している。
ホーチミン市からミトー市に向かう1号線沿いには中古トラクターの販売修理・リース(?)店がずらりと並んでいる。もちろんメコンデルタ地帯の農耕用である。メーカーとしてはクボタ製が一番多く、次いで井関製が展示してある。ヤンマー製はほとんど見かけない。
日本などからの中古の輸入品であり、ある程度修理して販売を行っていると思われ、機械の加工修理に関する地元産業は多数存在するということである。フクビ化学の異形押出の金型は現在日本から供給しているが、現地にもかなりよさそうなものがあるとのことである。
北部のハノイ市周辺に立地するキャノン・パナソニックやサムスンなどの電機産業も「孤島型」立地であり、組立産業が今後「裾野」へ波及する可能性は少ないが、南部のホーチミン市周辺では「裾野」への波及の可能性はあるのではないだろうか。たとえば、クボタはインドネシア・ジャワ州に耕耘機用のディーゼルエンジン工場を建設したが、ベトナムにおいてもメコンデルタの農業と機械加工産業などを結ぶ裾野産業の芽はある。もちろん部品点数は少ないが二輪車の修理という基礎もある。タイの自動車産業とは別の道が模索できるかもしれない。
(和田 龍三)
まちなかに溢れるバイク・バイク・バイク
市内を走る路線バスだが乗客は少ない
市内の路線バスマップ
一部高架化などの整備が進む
国道1号線
単線の線路でダイヤは少ない