2015-3-3
タイの経済状況と中小企業進出の可能性
平成27年2月11日から15日までの5日間をかけて、タイの首都であるバンコクを中心にJETROバンコク事務所および福井県に本社のある製造業3社の現地法人工場を視察した。JETROにおいて説明を受けた経済状況やそれぞれの企業における現状を視察して気づいた点について考察したい。
なお、本報告書は、文献等詳細なデータに影響を受けて執筆しているのでなく、視察を終えて感じた筆者の個人的な感覚に基づいて執筆されているものであることを前置きしたい。
①JETROバンコク事務所(保住正保所長、石川裕也氏(福井銀行から出向))
まず、タイの経済について感じたことを一言で表すと、「限界感」である。経済成長率の鈍化だけでなく、主要産業である自動車産業の頭打ち感、少子高齢化の進行などマイナス要素も多い。人口の多いインドネシアや低賃金から這い上がろうとしているベトナムなどに比較して現状の所得は高いものの、今後その格差は縮小してくると考えられる。
加えて、「穏やかな国民性」もあいまって成長の踊り場にさしかかっているのではないかと感じた。今後、この踊り場から抜け出していくには、工業技術や農業技術などの強化や医療・福祉の充実、交通など社会的インフラ整備なども鍵となると考えられる。
また、JETROでは福井銀行バンコク駐在員事務所の梶所長からも説明があった。昨年福井県へ行ったタイ人はたったの210人(石川県、富山県に比較して圧倒的に少数)という説明を聞き、タイとの今後の関係性について改めて考えさせられることとなった。
②バンコクAMC(松原工場長他)
福井市に本社を置く、日本AMCの現地法人であり、重機の油圧継手部品や自動車(特にピックアップトラック)の高圧継手部品の製造・販売を行っている。従業員は79名でうち3名が日本人である。2交替制で24時間稼働(残業時間を入れる)となっている。
経営上の課題は、やはり「人」にあるとのこと。「変化を好まない国民性」ということもあり、いかにして気持ちよく働いてもらうかがポイントとのこと。工場はレンタルのため生産量には限界があるが、行儀よく並んだ切削機械(NC旋盤、マシニングセンタ)が小気味よく生産を行っていた。
③福井鋲螺タイ工場(佐孝部長、川崎氏)
アマタシティ工業団地内に一昨年進出した。進出にあたっては、最終的にベトナムなども候補として上がったが、タイの税制優遇(BOI)が決め手となったとのことである。進出してから分かったことであるが、顧客が近くにいる(タイの主要産業は自動車産業)ために営業がしやすいことと、電気事情が良いことなどがメリットとしてある。
現在は19名でうち日本人は5名。現地人の採用に関しては、「フィーリングが合う」ことを大きなポイントとしてみていた。通訳については現地人ではなく日本人を採用していることで、こちら側の意図した内容がより正しく伝わるとのことである。警備システムや監視システムの整備、自社製の製造設備など高い利益率を誇れる理由が推し量られた。
④サハ・セーレン(大榎社長、他)
セーレンの代表的プロダクトである、「カーシート」の工場視察を行った。タイでは別の工場で「エアバッグの製造」および「アパレル製品」の製造を行っている。セーレンのカーシートの工程は、何といっても「一貫工程」が持ち味である。コストコントロールが可能であり、工場内も整然として製造ラインも明確で分かりやすいという感じをもった。
国内の中小企業が見習う一番のポイントであろう。カーシートも自動車生産の頭打ち感があり、今後の伸びは期待できないとのことである。セーレン本社の意向もあり、SAPを導入し、製造・財務の「全世界コントロール」化されている点に国内上場企業の力強さを感じた。
総評
「ほほえみの国」として知られるタイであったが、それが産業面では停滞感に繋がっているのだと感じた。ASEAN諸国の中ではまずまずの地位を築いてはいるものの、「自立」という観点からは、課題が多い国であると思われた。労働者の給与は上がっていくのであろうが、近い将来的、「タイ・ネクストワン」と呼ばれる日も来るのではなかとも感じた。
中小企業の進出の可能性については、これまでは自動車産業やその周辺がほとんどであったが、今後は他の産業(ITや医療・福祉などのサービス産業)にもその門戸が開かれるのではないかと感じる。インフラ整備の遅れもあるので、建設業の進出も期待できるのかもしれない(法的なハードル等については未調査)。
(竹川 充)