2015-3-3
バンコクの都市交通
1.アジア2位の渋滞都市
公共交通機関が一部整備されてきたということでほのかな期待もあったがバンコクの交通渋滞は、より一層ひどくなっているようである。
タイへの日系自動車産業の集中立地により、2013年の自動車生産台数は過去最高の246万台で世界9位となり、普及率は16.8%になっている。バンコク市内は完全に自動車社会である。しかし、バンコク中心部の道路面積率は7.1%と、世界最大の渋滞都市ジャカルタの7.3%とほぼ同じであり、東京23区の18.4%の半分以下、上海の12.0%、台北の14.9%など、他のアジア主要都市と比較しても極端に少ない。また、自動車に代わる公共交通機関が十分に整備されていないので、わずか10分ほどの距離で1時間もかかることが珍しくない。ホテルからスワンナプーム国際空港方面へはアソーク・モントリー通りを北進し高速道路に乗るのが最も近いルートで、わずか2kmほどだが、ほとんど車は動かない。
さらに、バンコクは日本の都市のように戦災や震災もなく古いまちがそのまま残されており、幹線道路もネットワーク化されておらず、幹線を一歩外れると細い路地となっており、行き止まりや一方通行も多い。やむなく幹線道路へ迂回すると渋滞に巻き込まれる。ラーチャダムリ通りに面するJETRO事務所から直線距離でわずか500mの距離にあるアテネタワーの福井銀行バンコク駐在員事務所に移動するにも、渋滞を避け、細い路地を通り抜けて行こうとするとけっこうな時間がかかる。
通勤・通学者がこの渋滞を抜ける便利なのがバイクタクシーである。オレンジ色のベストを着用し、渋滞の車列を右へ左へ、センターラインを反対車線にはみ出し縫うように走る。しかし、客はヘルメットを着用せず、スカートの女性はシートにまたがらず、滑り落ちそうな横座りである。スマホに興じる女子高校生もいる。料金は10B(40円)程度であるが、危険きわまりない。東南アジアの他都市:ジャカルタやホーチミンがバイク社会というならば、バンコクのバイクタクシーは交通渋滞による車社会からの退行現象といえなくもない。
ところで、バイクタクシーにも営業権があるようで、インラック前政権(タクシン派)時はバンコク都により登録・管理されていたが、軍事政権に変わったことにより、陸運局に権限が移され、マフィアがらみの営業権も大きく変動しているらしい。ドライバーはタクシン派時代に好意的なようである。
2.公共交通機関の整備
バンコクの公共交通機関でまず注目されるのは1999年末に開通したBTS(スカイトレイン)である。車輌はドイツから輸入したハイテク車両でエアコンもよく効く。
運行時間は通常5~6分間隔で、サヤーム・スクエアを分岐点に2系統が運行されている。料金は距離制で10~40Bであるが、我々はホテル近くのナーナー駅からサヤーム駅までの3駅間を移動し、25Bを支払った。発車時にベルは鳴るが、日本のように目の前でいきなりドアが閉まることはなく多少時間的余裕があるように思えた。車内はかなりの混みようであるが、差席に座る利用者の5人中4人はスマホを触っている。ここも日本と同じスマホ社会である。
もう一つ2004年に運行を開始した、日本の円借款を利用して建設が進められた地下鉄線(MRT「ブルーライン」)がある。現在も国鉄のクルンテープ駅から西の方へ延伸中であり、道路の掘削工事が行われている。
しかし、いずれも路線はバンコク中心部のみに留まっているため、公共交通利用者全体の70%はバスを利用している。渋滞する道路交通から鉄道への移動を促進するには軌道のネットワーク化・延伸が必要不可欠である。現在、円借款でバンコク都内のバンスーと北部ランシットを結ぶ大量輸送鉄道「レッドライン」(高架・地上8駅、26km)を建設中で、バンコク首都圏の渋滞緩和を目指している。元々、この路線は「ホープウェル計画」として香港資本が、高架上に六車線の高速道路も建設する、総延長60km、総額3,200億円もの野心的な計画を立て、1993年に着手されたが、アジア金融危機により1997年に計画は頓挫してしまった。
現在、建設が進められている「レッドライン」は当時の建設が放棄された橋脚は使わず、その横に新たな橋脚を建設して進められている。建設の一部はイタリア資本が請け負っているようだ。
3.その他の公共交通
バンコクはチャオプラヤ川の湿地を埋め立てて建設されたため、従来のバンコクでは川や運河を利用した水上交通が主要な交通手段であった。道路の渋滞を避けるには運河ボートが便利である。
また、ジャカルタや中国:天津などでも多く見かけた三輪車タクシー(トゥクトゥク)も公共交通の1つとなっている。但し、自動車があまりにも多いので片隅に追いやられ肩身が狭い思いをしているようである。
公共交通の主要な手段として路線バスがあるが、冷房のないバスと冷房付きバスが走っている。渋滞がかくもひどいと定時性という公共交通の目的からはかけ離れてしまう。
(和田龍三)
バンコク市内の渋滞
バイクタクシーに料金を支払う女性
チケット販売機(コインを投入)
BTSの車内(握り棒が高い?)
イタリア企業が建設する
「レッドライン」
手前がアジア金融危機で建設が
放棄された橋脚
三輪車タクシー(トゥクトゥク)
冷房付きバス