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タイの進出企業を訪問(海外視察研修レポートその5)

2015-03-09

タイの自動車産業と訪問企業

1.タイ自動車産業の特徴
 タイの自動車産業は生産能力としては300万台あるといわれ、ピーク時の2013年には246万台を生産し、うち国内販売が133万台だったものが、2014年には188万台(国内販売88万台)にまで減少した。輸出は横ばいであるが、政情混乱や農産物価格の低下などが影響し国内販売が33.7%も減少した。国内生産の内訳は乗用車が37万台、商用車が51万台でうち42万台が1トンピックアップトラックである。
 ピックアップトラックのメーカー別シェアではトヨタが39.7%、いすゞが34.9%と2社で3/4を占めている。ピックアップトラックの輸出先としては、オーストラリア、南アフリカの需要が多い。政府は、外資企業に対する投資誘致優遇策によって1トンピックアップトラックの生産・輸出をタイに根づかせた。
 日系メーカー各社はピックアップトラックの生産を日本からタイへ移管したが、特にトヨタは、日本で開発された車種を現地生産するというやり方ではなく、需要に適した車種の開発から部品調達、生産、輸出までを一貫してタイ現地で完結させる世界戦略車として位置付け、生産体制を再編している。

2.なぜピックアップトラックか
 タイはピックアップトラックが約60%を占める特異な自動車市場である。ピックアップトラックといえば、中東などの武装勢力が砂漠や山岳で荷台に機関銃を搭載して走り回ったり、又は米国の幅広い車体にV8エンジンを搭載したレジャー用車両のイメージがある。しかし、タイの農村部では悪路や水害の多い劣悪な環境下であり、必要とされる車の性能要求は異なる。
 ピックアップは普通の乗用車に比べて地上高が高く、水にも悪路にも強い。2011年にはアユタヤ周辺に進出した日系企業が水害にあったが、元々タイの中部平野を流れるチャオプラヤ川流域に立地する都市や農村は水害の脅威を日常的に受けてきている。そうした現地の環境に適応した車がピックアップであった。また農作業や物資の配達、時には労務現場まで作業員を運ぶのにも使うこともでき、日本での軽トラのような役割も果たしている。
 普通乗用車が排気量により30%~50%の自動車物品税がかかるのに対し、ピックアップトラックの税率は3%であり、税制上の優遇策がとられている。税制上の優遇措置をピックアップトラックに設定することで、自動車産業の牽引役にし、そのうえ、国産化率を義務づけるなどして、日本や海外の自動車メーカー、部品メーカーの誘致も同時に進めてきた。国内市場が低迷する中で、結果的にタイにとっては強力な輸出戦略商品となっている。

3.訪問企業
 訪問したバンコクAMCは元々建設機械向けの油圧継手を生産していたが、2008年のリーマンショックによる需要の急激な落ち込みにより、撤退も考えられたが、本社より何としても生き残れというサバイバルプランを指示され、自動車産業に進出した経緯がある。現在、いすゞ・日産・ルノー・マツダなど自動車関連が売上高の2~3割を占めている。タイの自動車産業はサプライチェーンの構築も進んでおり、新規参入が難しいところではあるが、訪問企業はピックアップトラックの重要部品の1つである油圧ブレーキ部品(プレキ配管)の継手に新規参入している。
 AMCの部品は、鋼棒を切断し、NC旋盤で外面加工・中ぐり加工等をしており、部品単価は2000円~数十円(建設機械部品を含む単価)と、「乾いた雑巾を絞る」といわれる自動車部品の単価としてはけして安いものではない。しかし、ピックアップトラックは普通乗用車と比較して車体も長く、トラックとしての剛性も要求されるため、建設機械で培った技術が新規参入するうえでの強力な武器となったといえる。日本ほどには分厚い中小企業の基盤が存在するわけではなく、プレス加工のような量産品ではない機械加工の場合、かなり参入の糸口があるのかもしれない。
 2社目に訪問した福井鋲螺タイ工場の場合は、2013年2月に進出したばかりであるが、鋼やアルミ・銅・真鍮などの線材をヘッダーマシーンで冷間圧造し塑性変形させて、特殊形状のリベットやピンなどを生産している。
 量産品であり1個数円という単価であるが、用途に合わせた材料を選択し、様々な形状に加工できるという強み、メーカーは政府から現地化要求の強いプレッシャーを受けていること、また、バンコクやアユタヤ周辺の3時間の移動距離内に日系企業が集中している立地条件もあり、営業力を強めれば今後の伸びが期待される。
 3社目のサハ・セーレンは進出から20年という老舗であるが。主な生産品目はカーシートとエアバッグのインフレータを除く布部分・一部スポーツ衣料を縫製している。カーシートは編みから染色・縫製まで、エアバッグは織布については東レ・東洋紡の現地法人から供給され、樹脂加工から縫製までを行っている。
 日本での工程の違いは、原糸メーカーが織布まで行っており、日本のような機屋は存在しない。染色業は装置産業であり簡単に新規参入は出来ないが、ほぼ自動車産業に特化したサハ・セーレンの浮沈は今後の世界自動車産業のハブを目指すタイ自動車産業の動きにかかっているといえる。

(和田龍三)

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ピックアップトラック

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水害の跡がくっきり残るアユタヤ遺跡の売店

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バンコクAMC

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サハ・セーレン

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