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若狭地域の大規模園芸施設とメガファームを視察して

2017-04-25

 今回、例会として農業ビジネス研究会の企画で、若狭の農業を視察した。小浜市で見学したのは青ネギ大規模施設の「合同会社 若狭こすもかんとりー」である。大規模水耕栽培施設の視察は初めてであったため、参加する前に、作業服・長靴姿か普通のスーツ姿で行くかどうか悩んだが、結果として、施設内に外部の土壌等からの雑菌を持ち込まないように入口でスリッパに履き替えての見学となった。養液の入った水槽に規格の水耕パネルに青ネギを定植し、浮かべて育てる「湛液式」の養液栽培である。水耕栽培設備メーカーの投資事例では、300坪(1000㎡=1反)で投資額30,000円/1㎡、栽培品種は全く異なるが、年間生産量:21トン、1㎏当たり販売単価:@700円で年間売上高:15,100千円という数字が出されている。これと「若狭こすもかんとりー」を比較すると、1㎏当たり販売単価はほぼ同額だが、年間生産量は5,000㎡で52トン、1,000㎡で比較すると10.4トンとなり、ほぼ半分の生産量である。原因としては冬場の生産量が低いことにある。4月~10月は1.5ヶ月に1回の作付けだが、11月~3月はこれが3ヶ月に1回の作付けとなっている。福井県は日照時間が全国と比較するとかなり短く、都道府県ランキングでは43位(2010年)となっている。ちなみに小浜市と園芸の全国的産地である愛知県三河地方(例:岡崎市)の日照時間を比較すると岡崎市は年間2,253時間であるのに対し、小浜市は年間1,586時間と70%しかない。さらに冬場の11月~3月の5か月間で比較すると、岡崎市は月178時間あるのに対し、小浜市はわずか86時間と48%でしかない。太平洋側とは競合しない作物や販売先の開拓で勝負するしかない。
 2件目は高浜町の「合同会社 ながの農園」においてミディトマト「越のルビー」(品種は「華おとめ」)の水耕栽培を見学した。生産目標は年間60トンということであるが、現況は52トンということである。特徴は冬場の重油使用量を削減するためヒートポンプと温風暖房機を組み合わせ、夏場も施設内の温度が非常に高くなるため夜間にヒートポンプ稼働させるとのことである。栽培方法は無培地で溶液を噴霧する方式で、見るのも初めてである。また、仕立てはハイワイヤー方式ということで、茎が伸びるにつれてつる降ろしをすると同時に下葉を摘除しながらワイヤーに絡めて上に3mほどまでに伸ばしていく方式で受光体制を改善してトマトが利用できる光を最大限にする方式であるがこれも見るのは初めてである。床にレールが敷設してあり、その上の作業台車に乗っかって作業するので、作業姿勢の改善や作業時間の短縮が可能になる。夏場の露地栽培で支柱に仕立てていくような栽培方法しか経験したことのない者にとっては、驚きの栽培方法である。また、受粉作業は受粉昆虫であるマルハナバチを利用している。近くまで飛んできたが、無理に追い払わなければ刺すことはないとのことである。ハウス内では受粉作業はやっかいであるが、受粉昆虫により大変助けられる。培養液は,養液循環方式である。肥料は、チッソ分とそれ以外の肥料に分けて管理している。循環してきたものを計測し、足りなくなった分を補充する。また、pH管理を行っている。
 施設園芸にとってエネルギー対策は最重要課題である。「なかの農園」はヒートポンプを導入する外、天窓・惻窓・保温カーテン・遮光カーテン・循環扇・炭酸ガス発生装置など温度・風速・日射量・時間による複合環境制御を行っているが、相手が、天候に左右される生き物の植物であるだけに製造工場のようにはいかない。地熱を使ったり、廃熱を利用したり、バイオマスを利用したり等々様々な工夫が必要であろう。「若狭こすもかんとりー」では夏場、地下水を養液槽内のパイプに流し根の冷却を行っている。
 3件目は前野壽伸会員による「メガファーム『若狭の惠』」の資料による説明であった。小浜市宮川地区(人口800人、戸数200戸、農地200ha)全体の広域組織を設立するまでの苦労の過程の説明であった。20年かかつてようやく大規模集団化にこぎつけたとのことである。福井県は特に農業従事者の高齢化が進んでおり65歳以上の従事者は80%を占める。こうした中、米価は下がる傾向にあり、益々生産コストに見合わなくなっており、結果、後継者は育たずさら従事者の高齢化が進み、ついには農業を継続できなくなり耕作放棄地が増大し、水路や農道などの社会的インフラの管理も行えなくなり地区全体が衰退していく。これを広域的な営農体制をつくることによって、生産コストの低減や、高付加価値農産物の栽培などによって地区全体を保全するとともに、新規事業への挑戦も考えている。戦後の農地解放により零細な自作農が多数創設され、当初は所有権を取得したということで生産性も向上し、その後機械化が進み、また、バブル期までは農地価格が上昇することもあった。高齢の農業従事者はこれまで農業を支えてきたが、その世代もほとんど退出してしまった。そこで各地区でこうした新たな経営体が求められている。

(和田龍三)

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出荷直前の青ネギ
「若狭こすもかんとりー」

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ハイワイヤー方式のトマト栽培

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「なかの農園」養液循環装置

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肥料濃度とpHが表示されている。
トマトは微酸性のpH6.5前後が管理水準

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