診断士の視点

規制が厳しくなってきたマレーシアの外国人労働力

2018.02.23 投稿和田 龍三

規制が厳しくなってきたマレーシアの外国人労働力

(マレーシア視察研修報告)規制が厳しくなってきたマレーシアの外国人労働力

 (一社)福井県中小企業診断士協会は福井県経営者協会と合同で2月10~14日の5日間、マレーシア・シンガポール視察研修を行った。
 今回は、1981年の五六豪雪以来の大雪となり、福井市内でも積雪が150cmに迫る中、視察が実施できるか危ぶまれたが、多数の欠席者も出たが、交通不便者は小松市内に前泊する安全対策を取るなどして最終的に15名が参加した。
 マレーシア・クアランプール国際空港に到着し、入国審査を受ける時に面食らったのは、両手の人差指の指紋をカメラで写されたことである。
最初、右手の人差指だけを出したところ両手の指を出せと言われた。
この審査は出国時にも行われたが、それだけマレーシアの出入国管理が厳しいということである。
 3日目にJETROクアランプール事務所を訪問し、菅原等シニア・アドバイザーからマレーシアの政治経済の概況について説明を受けた。
 マレーシアは多民族国家であり、マレー系などブミプトラ(土地の子)といわれる民族が69%、華人が23%、インド系が7%を占める。
華人系・インド系はかつての宗主国であった英国がゴム産業・スズ産業の労働力として連れてきたものであるが、経済的には華人系が有力なため、就職枠や公務員への登用・自動車ローンなどでマレー系を優先するブミプトラ政策が1971年以来とられている。
マレーシアは外国人労働者(Foreign workers)への依存度が高く、外国人労働者はインドネシア・ネパール・バングラディシュなど250万人がいるといわれる。
 菅原さんによると、この外にも非正規で就労ビザのない外国人労働者が500万人ほどいるのではないかとのことであり、全人口の1/4を占める外国人労働者大国である。
日系製造業では全社員の3割を占める。
 マレーシアでの就労には就労許可が必要であり、外国人労働者への過度な依存を避けたい政府は今年1月1日より、外国人労働者の登録、雇用、契約を終えて外国人労働者が母国に戻るまで、その責任を雇用者が負うことを定める雇用者必須確約(EMC:Employer Mandatory Commitment)を始めた。
新規の外国人労働者の流入は厳しく審査されることとなり、外国人労働者雇用の課徴金である人頭税(レビー)は労働者自身の負担から、雇用者負担とすることに変更された。
 しかし、立ち仕事や夜勤などの労働が多い製造現場での仕事は、マレーシア人が敬遠する傾向にあり、外国人が貴重な労働力となっている。
 午後に訪問したKOOKI MASUNAGA MALAYSIA SDN BHD(増永眼鏡株式会社 マレーシア現地法人)では、増永泰典専務・谷茂則工場長・前川知樹部長に対応して頂いた。
KOOKIでは従業員65名中、外国人労働者(ネパール人)が20%を占めている。
ネパール人を除く平均年齢は45歳であるが、ネパール人は20歳台前後である。
KOOKIでは従業員を採用するものの若手を継続的に雇用することが難しく平均年齢は上がり続けており、次世代の確保が課題となっているようである。
 特に夜間の交替制勤務はマレー人には嫌われる傾向にあり、KOOKIでは24時間稼働するマシニングセンターによる機械加工工程にネパール人を当てている。
もちろん、熟練度は高くないので、プログラミングも他の社員が行い、ワークの脱着などの単純な作業でも手順でも間違うことがあるということだが、8時間+4時間残業=12時間の2交替制でこなしている。
 他の溶接工程や研磨工程などはマレー系の女性が行っている。
研磨工程などは細かい粉が飛び散るため日本では女性に敬遠される工程であるが、マレー系の女性は敬遠することはないようである。
従業員の作業は見ていても丁寧であり日本レベルの品質を確保しており、日本へは月2回の航空便と船便で原材料と製品の輸送を行っており、日本とマレーシアとの賃金差が利益となっている。
 KOOKIがマレーシアに会社を設立したのは1992年であるが、当時の福井県の眼鏡業界が中国にしか目を向けていない時代に唯一マレーシアに進出している。
判断としては政治の安定・インフラの整備水準の高さ・英語などの教育レベルの高さなどがある。
また、当時のマハティール首相のLook East政策の影響も大きい。
個人の利益より集団の利益を優先する日本の労働倫理に学び、過度の個人主義の西欧的な価値観を修正すべきであるとして、マレーシア国内では日本に対する関心が高まり、親日的な風土が醸成されたことも進出を後押しした大きな理由となっている。
 JETROの菅原さんも指摘していたが、日本企業では現地従業員がなかなかマネージャークラスまで昇進しないことが問題になっている。
KOOKIでも現地従業員の管理職層がなかなか育っていないとしている。
そうなると、自ずと日本からの派遣者に負担がかかる。
中小企業の場合には大企業のように3年サイクルのローテーションで回すわけにはいかない。
どうしても海外に派遣される人材は限られてきて滞在年数が長くなる傾向にある。
これはKOOKIのみに関わる問題ではなく、他の東南アジア諸国に進出している多くの企業の問題でもある。
 Tuanku Jaafar工業団地には日本企業の他、韓国・SAMUSUNGも進出している。
団地内の日本企業同士で給料などの情報交換をしているが、給料が最も高いのはSAMUSUNGとのことである。
しかし、従業員管理が厳しいのですぐ辞めるとのことである。
 マレーシアの主要な製造業は日系メーカーを中心に電気・電子産業であり、輸出の44.6%を占めるが、その他に、自動車産業が特徴となっている。
東南アジアでは唯一の国民車メーカーがあり、シェアの1位はプロドゥア(ダイハツとの合弁)、2位がプロトン(当初は三菱自動車との提携)であったが、最近はホンダが急激に販売台数を伸ばして2位に浮上している。
 プロドゥアが大きく伸びた要因はダイハツの軽自動車の技術を持ち込んだことにある。
マレーシアの所得水準と車の価格がマッチしたことにある。
新車販売台数は年間約60万台であり、2016年前後からMRTやモノレールなどクアランプール市内では最近公共交通機関が整備されてはきたものの自動車がなければ生活できない一大自動車王国である。
 12日のホテルでの夕食懇談会ではH&F(株)のマレーシア子会社:HZF Services Sdn. Bhdの京久野俊吾部長とお話しする機会があった。
H&Fは2006年にマレーシア・ペタリンジャヤに販売・メンテナンス拠点を設けたもので、製造工場はない。
京久野部長以外は全員マレーシア人である。
プロトンの工場増設時に大型プレス機を導入したことで、マレーシアとの関係が生まれ、プレス機のメンテナンスや販売拠点として機能している。
 コマツのプレス機はトヨタを主体に販売されているが、H&Fのプレス機は日本国内ではホンダを主体に販売しており、今後のマレーシアにおけるホンダ車の販売台数増に期待を寄せていた。
 H&Fは元々福井機械(株)であったが、日立造船(株)の出資を受け、1999年に日立造船(株)のプレス部門と統合して社名をH&F(株)に変更し、最近100%子会社となったが、京久野部長も日立造船の出身である。
 13日は、クアランプールからシンガポールに立ち寄って帰国したが、シンガポールはマレーシア以上の外国人労働者大国であり、全人口の1/3は外国人労働者である。
 シンガポールでは各家庭ではメイドを雇っており、住宅には必ずメイド部屋も設置されている。
TOSHIN DEVELOPMENT SINGAPORE の竹原社長のお話では、フィリピン、インドネシア人などが多いようで、フィリピン人が約10万円、インドネシア人が8万円とのことである。
そのうち、半分が人頭税として国に治められる。メイドは2年更新であるが、その間に雇用主が帰国するなどして雇用契約が切れればメイドは自国に戻らねばならいが、更新は何回でも自由で10年以上という場合もあるとのことである。
 なお、シンガポールの入国審査は両親指の指紋を取られたが、ここも外国人労働者の出入国管理は厳しい。

  • JETROクアランプール事務所・菅原さん
    JETROクアランプール事務所・菅原さん
  • KOOKI MASUNAGA マレーシア現地法人
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  • 国産車「プロドゥア」
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  • 高速道路網の発達した クアラルンプール郊外
    高速道路網の発達した クアラルンプール郊外