マレーシアの日本食事情とハラル対応
マレーシアは、人口の約7割がイスラム教を信仰するマレー人ということで、日本食品の輸出や飲食店の進出では、「ハラル(許されたものという意味)」への対応が課題となっています。
そこで、ジェトロ事務所や日本食レストラン「勘八」、イオンモールでのヒアリングや伊勢丹等の見学などから感じた点を紹介したいと思います。
日本食レストランの進出状況
クアラルンプールで永年、日本食レストランを経営している「勘八」の矢部支配人は、
「最近、LCCが札幌にも飛び始め、北海道で新鮮な魚を食べた経験のあるマレーシア人も増えている。
大きな額は出せないが、日本食を食べたいという若い世代も増えてきていて、市場は広がりつつある」と話すが、一方で、まだまだ一食に掛けられる金額は限りがあって、
「20リンギ(約600円)程度のメニューは受け入れられているが、それを超えると難しい状況にある」と率直に話しています。
クアラルンプールの銀座と呼ばれるブキッビンタンのLot10に入る「伊勢丹ジャパンストア」の4階の日本食レストランや地下のイートインコーナーは、地元の人向けにはちょっと高い印象があり、最近同じビルに双日がコーディネートした「J’sゲート」は価格帯も低く抑えたことで、当たるのではないかとの見方でした。
後で、「J’sゲート」に入る寿司店の日本人の板前さんに話を伺うと、「中国系か日本人の駐在員がほとんどで、頼んでも130リンギ(3,500円程度)のセットを2人でシェアすることが多く」思ったほど売上につながっていないようで、「うまくいっているのはやよい軒くらいではないのか」と、価格面でのハードルの高さを語っています。
クアラルンプールでも、居酒屋などの日本食レストランはまだ少なく、あっても中国系の人が経営しているところがほとんどで、日本からの進出は始まったところ。
今後は、更に旅行などで日本での体験をした人が増えるので、本物の日本食を求める人は増えるのではないかとの印象を持ちました(現地のセブンイレブンでは、おにぎりも販売していました)。
一方で、「勘八」は高級日本食店として展開していて、中国系の方やマレー人でも富裕層の方に利用されていますが、高いお金を出してもおいしいものが食べたいという方も多く、食通向けに食材を空輸で運びながら提供するというビジネスも成り立っていて、昨年秋に熊本と徳島との畜場がハラル認証を受けたことで、日本の和牛がマレーシアでも注目をされ始めているという。
日本食レストランの進出においては、低価格で若者狙いで行くのか、品質や味にこだわり高価格でも飛び抜けたブランド力を築いてくのか、の2極化が成功のカギと感じました。
「ハラル」への対応
イスラム教の国というと、日本では「ハラル」への対応をどうするかが、よく伝えられています。
福井県内でも、ハラル認証をとった食品が誕生しはじめていて、マレーシアの食品市場はイスラム世界への入り口としても注目を集めています。
訪問したイオンモール・シャーアラム店では、ハラル認証を受けた店とノンハラルの店があり、「排気ダクトは別々に引くことはもちろん排煙が逆流しない設備も付けて、完全に分けることが必要」と注意点を紹介するとともに、食品スーパーは敢えてハラル認証をとらずにノンハラルと表示している、という。
「豚肉やアルコール類を仕切って売場をつくればハラル認証は取れるが、本当にイヤな人は仕切ってあっても目に入ることを嫌うので、むしろノンハラルと宣言して、あとはお客様の選択にまかすことにした」と説明。
「勘八」でも、厳格なハラルでは、豚やアルコールを使った食器とハラル用の食器を重ねることができなかったり、調味料にも発酵したものが使えないなど、とても対応ができないので、「ポークフリー」とだけ表示することにしている。
真相はわからないが、イスラム教でなぜ「豚が汚いもの」と扱われているのかについては、たぶん昔は伝染病を媒介するものと見られていたことが背景にあるようで、学校でもなるべく近づかないよう汚いものと伝えてきたことで、豚を嫌う気持ちが強くなってきたのではないか、との意見がお目に掛かった皆さんから多く聞かれました。
伊勢丹の食品売場では、ハラル表示のある加工品もあれば、ノンハラルをプライスカードに表示した商品もあり、消費者の選択に任せる売り方しかできない現状を伺うことができた。
ジェトロの担当者は、「日本ではハラル対応レストランが少ないので、マレー人の旅行者は缶詰などを持って行くのが普通」で、現在はあまり問題にはなっていないが、「東京オリンピックまでにハラル認証レストランが増えないと、選手も食事ができないし、応援団への対応でも大きな問題になりかねない」との見方も示していました。
信頼されるJAKIM認証
ジェトロや勘八の方々からは、「マレーシアのハラル認証機関JAKIMは、世界のイスラム国と相互認証を行っているので、アジアや中東、アフリカなどイスラム世界への食品の販路拡大には、JAKIMの認証取得が近道」との話が聞かれました。
現地の食品スーパーでお土産を探している時にも、マレーシア製のチョコレートにはJAKIMの認証マークがついていて、加工品は全てハラル認証が必要な世界なのだと改めて納得したところです。
また、マレーシアでは、交渉次第で行政手続きがスムーズに進んだり、法律の解釈が変わったりするとの話も聞かれました。
確かに、東南アジアに共通する“袖の下”というのもあるようですが、しっかり理由を説明すると「確かにそういう考え方もある」と理解してもらえるケースも多いということです。
注目すべきお菓子市場
お酒を飲まない代わりに甘いものを食べるのが好きなマレーシア人。
糖尿病が国民病とも呼ばれるほど、お菓子好きのようで、政府も小麦粉や砂糖に補助金を出して買いやすくしているとのことです。
高額な日本商品を扱う「伊勢丹ジャパンストア」の中でも、最も賑わっていたのは4階の飲食ゾーンにあるカフェで、ケーキを食べながら談笑する女性グループやカップルで満席の状態でした。
スターバックスは、日本と同じ300円以上、タピオカミルクティも200円以上の価格でも売れているところを見ると、お菓子やカフェ市場は案外ねらい目なのかも知れません。
平均年収は1万ドルでも、外食にお金を使うマレーシア市場は、いろいろな食に切り口を試す場所にもなるのではないでしょうか。