診断士の視点

ドイツの休み方、働き方

2019.07.01 投稿峠岡 伸行

ドイツの休み方、働き方

ドイツの休み方、働き方

 先日、これからの働き方を考える海外視察でドイツを訪問し、現地で働く日本人の方とお話をする機会を得た。
そこで、ドイツの休日に体験したことを中心に、これからの日本必要だと思われる考え方や仕組みの変化について感じた点をお伝えしたい。

1.生産性の違い
 さて、その前に、経済や生産性について触れておくと、日本の一人当たりGDPは約3.8万ドル、一方のドイツは約4.3万ドルとその差は0.5万ドル(約50万円)だが、年平均労働時間を見ると、日本の1,710時間に対してドイツは1,356時間と、時間当たりの生産性で見るとドイツは日本の1.5倍となっている。
 また、ドイツでは週の労働時間は35~37時間、残業を含め1日の労働時間は10時間以内と決められていて、年次有給休暇の30日をほとんど取得しながらも生産性を向上させている。
 このような差はどこから生まれてくるのか。
当然、一人ひとりの働き方や生産性向上に向けた企業の取り組みを見ていく必要はあるが、ちょっと見方を変えて、休日の過ごし方から見てみることも重要ではないだろうか。

2.ドイツ独自の閉店法
 ドイツでは、日曜祝日は小売店や飲食店が休みになる。
州によって若干違いがあるが、閉店法によって日曜祝日は休業し、平日や土曜日も午後8時までしか営業できない。
ビアホールと駅などにあるミニスーパー、パン店は一部で休日も営業しているが、これも開店の許可が必要となっている。
働く人の労働時間が適正に守られるかが基準となっているようだ。
 観光で訪問する人にとっては、お土産を買うにもちょっと不便ですが、現地に住む日本人の方に聞くと「必要な買物は土曜日に済ませるので、日曜日は家族との時間が十分にとれるし、慣れればこれも社会全体のために良いこと」と受け止めているようだ。

3.飾られたショーウィンドウ
 休日の街なかを歩くと、日本では「シャッター街」が多いが、ドイツではショーウィンドウが設けられているのが普通で、閉店中でも商品を陳列し照明をつけて店頭を飾っている。
 通りを歩く人にウィンドウショッピングの楽しみを提供しているし、夜の街が明るいことで安全性を高める効果もある。
 日曜や祝日が休みであっても、別の楽しみを提供することで、不便さを少しだけ解消しているのではないだろうか。
 日本では、コンビニの24時間営業について議論されているが、小売業で働く従業員や経営者の「家族との時間」についてあまり議論されていないことの方が、日本の問題なのかもしれません。

4.夏は外でビールが当たり前
 ミュンヘンやフランクフルトの休日の中心街は閑散としているかというと、確かに午前中は静かだが、午後になるとビアホールの前の舗道や広場に設けられたテントの下には多くの家族や友人とビールを楽しむグループが溢れている。
 夏の短い欧州では、夏の日差しを浴びることが免疫力を高めるために必要だと言われていて、時間を惜しんで外で過ごす人が多いが、ドイツの公園や広場ではそのような姿が多く見られる。
 お昼から夜遅くまで、ビールのジョッキを交わしながらいろいろとおしゃべりして過ごす姿を見ると、ドイツ人が大切にしている「時間」が理解できてくる。
 また、朝の散歩中には自転車に乗った家族連れとすれ違うなど、休日は家族で自然の中で過ごす人も多いようで、そのために前日は早朝出勤して早めに退社し準備をするなど、自分の労働時間は自分で決めることができる仕組みも、このような「時間」を大切にする支えとなっている。
 ミュンヘンでの日曜日に美術館を訪問したが、ダビンチやラファエロ、ルーベンスといった著名な画家の作品が多く展示されるだけでなく、日本と違ってロープ等の柵はなく、日曜日は入場料が1ユーロと格安になり家族料金も設定されて、家族で楽しめる環境が整えられ、休日に街なかに出かける理由となり、街の賑わいにもつながっている。

5.自由は重い自己責任の上に
 ドイツで、労働時間が短い中で生産性を上げている理由は、働く時間を自分で決めることができる制度とともに契約書で決められた職務が遂行できなければ、賃金の低い他の職務への変更か退職を求められ「結果責任」が重いということもある。
 従業員を簡単に解雇ができないのはドイツも日本も同じですが、今の日本では、賃下げもできず「努力しなくても、就業規則を守っていればマイナスにできない」ルールが、生産性にも大きく影響しているのではないでしょうか。
 「自分で決める」ことは「大きな責任を持つ」ことでもあります。
小さい頃から自分で決める経験を持つことで、責任の重さに負けない気持ちを持つことができるのでしょう。
 だからこそ、仕事時間は集中し、休日は思いっきり仕事を忘れて遊ぶことも、生産性を高めることに大いに役立っているのではないでしょうか。

 このようなドイツの生活と働き方の中には、これからの日本人の働き方、生産性向上だけでなく生活を楽しむヒントが多くあると感じました。

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