インドネシア視察研修報告「7年ぶりのインドネシア再訪、何が変わり・何が変わらないか」
(一社)福井県中小企業診断士協会は福井県経営者協会と合同で2019年2月19~24日の6日間、インドネシア視察研修を行った。今回は、学生3名を含め14名が参加した。
首都ジャカルタは2013年2月に診断士協会として独自に視察しており、診断士協会としては7年ぶり2度目の視察である。
1 変わらないジャカルタ市内の渋滞
変わっていないことは、ジャカルタの渋滞である。世界最悪の渋滞都市といわれるだけはある。
今回も、ジャカルタ中心部から東に約60kmのところに立地するカラワン工業団地に立地する日華化学(PT.INDONESIA NIKKA CHEMICALS)を訪問後、夕食の会場である、市内モナス(独立記念塔)地区にあるボロブドゥールホテルまで3時間半近くもかかってしまった。
バイクは相変わらず多いが、7年前と比較すると乗用車がかなり増加しているように見受けられる。
また、市内・郊外のあちこちで道路や鉄道などのインフラ建設が進んでいることも渋滞をひどくしているようである。
2 「ゴジェック」という配車アプリ
「ゴジェック」はバイクタクシーの配車アプリ大手である。
渋滞で身動きが取れない車の脇を鮮やかな緑のヘルメットに「GOJEC」と書かれた2人乗りのバイクがスイスイと通り抜けていく。
これまでは、値段も交渉であり、非常に危険な男だけの乗り物というイメージであったが、これを一新して女性客の需要を掴んだ。
スマホには運転者の顔写真や連絡先、1km約20円という料金も決まっており安心できる乗り物に変化してきている。
しかも、配車だけでなく、弁当の宅配やeコーマスの使い方もしている。
と同時にスマホ決済の「ゴーペイ」の導入も進んでいる。
決済の5割がスマホ決済だという。
インドネシア経済は遅れているというイメージだが、こうしたスマホを使った新しい分野では世界の最先端を行くものもある。
10万ルピア札という非常に額面の大きな紙幣も日本円で換算するとわずか800円程度であり、紙幣は非常に使いづらい。
スマホ決済が普及すれば、現金決済に執着する日本などを追い越す分野が続々出てくるかもしれない。
3 イスラム過激派のテロへの対応
2016年1月14日、前回も今回も宿泊したサリ・パシフィック・ホテルのすぐ横のスターバックスコーヒーや交差点中央分離帯の交番をイスラム過激派が襲撃し7人が死亡し24人が負傷する事件が発生している。
スターバックスのあるビルには日本企業や在留邦人の協力組織が入居しており、元々は政府関係機関も入居していたこともあるジャカルタに住む日本人にとっては馴染みのあるビルである。
前回は、早朝に時間があったので、毎朝スターバックスの辺りを散歩したが、今回は朝の出発が早く、散歩する機会が取れなかった。
我々が宿泊したサリ・ホテルは7年前でも玄関に金属探知機を置いて警備しており、ずいぶん警備の厳しいホテルだという印象を持っていたが、今回、夕食会場のグランド・インドネシアモールに入るにも金属探知機が設置されており、7年前の訪問時よりも警備が厳しくなっている印象である。
また、22日に訪問したイオンモール・ジャカルタ2号店(イオンモール ジャカルタ ガーデンシティ)でも同様の金属探知機を設置して厳しく警備していた。
ラマダン明けの人がごった返す時期でも警備を緩めないかという問いに対して、警備の質を上げていく必要があるので厳しく行うとのことだった。
4 イスラム教の慣習
インドネシアの宗教構成は、イスラム教が9割、その他キリスト教、ヒンズー教、仏教などがあり、宗教省も設置されているが、イスラム教だけが国教ではない。
イスラム教の慣習への対応では7年前と比べると、若い女性を含めストールを被る女性が増えたような気がする。
特に子供にも被せている。
しかし、マレーシアと比較するとまだ戒律に対する遵守は弱いようである。
ジョグジャカルタの観光案内をした女性はムスリムではあるが、ストールは暑いので被らないとのことである。
ストールの下に布の白い帽子状のものを被り、その上にストールを被るのでかなり暑いと思われる。
また、公共的施設には必ず礼拝施設が設置されており、日に5回の時間帯にお祈りする。
イオンでも各階のトイレの横に男女別の礼拝施設があり、早朝4時40分から19時26分までのお祈り時間が表示されていた。
礼拝施設には靴を脱いで出入りするため、下足箱が入口に設置されている。
顔を洗い、手・足も洗うため、メガネを置く場所などもある。
スカルノ・ハッタ空港などにもきれいな礼拝所が設置されている。
イオンでは従業員はお祈りの時間に一斉に持ち場を離れてしまうのではないかと聞いたところ、敬虔な信者は時間通りに礼拝するが、2時間の間にすればよいので、時間帯をずらして礼拝する従業員も数多いとのことであり、持ち場が空になることはないようである。
ところで、イオンを含め、モールが一番繁盛する時期はラマダン(ムスリムは約1か月、日の出から日没まで断食を行う。その間、水を含め一切の飲食を断つ)明けの「レバラン」(今年は6月3日)といわれる時期である。
次がキリスト教徒のクリスマス、そして、華僑系の正月(春節)となる。
訪問した、グランド・インドネシアは春節明けということもあり、従業員同士が私語をするなど売り場は閑散としていた。
前回の7年前は春節前でごった返しており、大きな違いを感じた。
ところで、イオンモールの1300席のフードコートはラマダン中の日没後は空腹を満たすためのムスリムでごった返すとのことである。
フードコートではまず、「Smile of Life」というプリペイドカードを一旦購入して各フードコート内の36店のママパパストアーで好きな料理を買うというシステムで、余ったお金は現金で戻してくれる。
プリペイドカードを導入したのは小規模店舗のパパママストアーは現金管理に慣れていないため、管理の都合によるとのことであり、今後さらに改善の余地はあるようだ。
「ゴジェック」のようなスマホ決済システムが導入されてくるのかもしれない。
5 訪問企業:日華化学・セーレン
日華化学は前回も訪問しており、前回もお会いした田邊社長は今年で9年目になるという。
主にインドネシア国内向けの界面活性剤などを製造している。
こじんまりした工場という印象であったが、現在、事務棟を建設中(訪問した時もまだ一部工事中)であったが、1階のラボ(試験室)を大きく拡張し、様々な染色用の試験器具を揃えていた。
また、バンドン工科大学卒業の優秀な女性などを採用しており、当工場をASEANでの試験研究拠点として位置付けて展開していきたいとのことである。
工場棟は7年前と変わりがないが、原料や製品が敷地内に積み上げられ、そろそろ増設しなければならない時期に差し掛かっているといえる。
ところで、従業員の賃金は8年前の1万円から3倍以上となっており、前回訪問時にお聞きしたバイクに対する融資制度は廃止したとのことである。
12~13万円のバイクを購入するには十分な賃金となりつつある。車通勤する従業員もでてきている。
セーレンは2013年に工場を建設しており、今回初めて訪問した。
主にトヨタやホンダなどの自動車用内装材を製造している。
インドネシアの自動車産業は99%を日系メーカーが独占しており、ベンツやフォルクスワーゲンを少し見る程度である。
原糸は購入しているが平織・経編から染色・セットまでの設備を備えており、縫製は下請け工場に出している。
日系メーカーへの自動車内装材メーカーでは2003年に住江織物が、2006年にはTBカワシマ(トヨタ紡織+川島織物+豊田通商)が進出している。
住江織物はインドネシアを中心に東南アジア一帯に広がる大財閥系企業グループシナール・マス(Sinar Mas)と合弁で設立しており、TBカワシマはインドネシアのバンドンを本拠とする世界的な一貫・総合インテリア生地メーカー:アテジャ・グループと合弁している。
セーレンは住江・カワシマと比較すると新規参入であるが、独資であり合弁企業より意志決定は早いものの、財閥をバックにしていないため不利な面もあるようだ。
経済連携協定が進みつつあるが、まだまだ外資への規制も強いようである。