今回は、函館市や青森市の観光施設整備やソフト事業、まちづくりについて紹介します。
観光入込客の動向
今回訪問した函館市と青森市は、ともに人口規模では福井市と同じ27万人程で、人口減少は福井市よりもスピードが速い。
観光入込客では、青森市、函館市、福井市の順で、それぞれの観光行動を比較すると、函館市では宿泊が64.6%と高く、青森市では27.6%、福井市は20.9%となっている。
函館市は湯の川温泉、青森市は浅虫温泉のような温泉宿泊施設を持っていることで、宿泊の割合が高くなっており、函館市は特に道外からの入込客は日帰りが難しかったということもあるが、新幹線開業によって東北エリアや北関東からの日帰り観光も可能となり、今後更に入込客が増えることが予想される。
赤レンガ倉庫が拡大する函館ベイエリア
函館市は、旧函館公会堂や教会が集まる元町地区、赤レンガ倉庫群のあるベイエリア地区、五稜郭及び函館奉行所、函館山からの夜景、湯の川温泉など魅力的な観光目的地が多くあり、それらの観光施設が市電で結ばれていることが最も特徴的である。
近年された史跡や観光施設では、五稜郭の中にある函館奉行所が平成22年に復元完成し、五稜郭タワーが平成18年に建て直され、また、ベイエリアの金森倉庫群は飲食店や土産物店、工芸品店などに中をリノベーションして使われるとともに、周辺地域でも、古いレンガを外壁に利用した赤レンガ倉庫が新たに建設され飲食店などに活用されていて、ベイエリア周辺が赤レンガをテーマに統一された整備が行われている。
若干残念だったのは、この倉庫群の隣に建設されたホテルで、赤レンガのイメージを踏まえてはいるものの、周辺の景観を考えるとその高さが大いに気になるものであった。
充実する街歩きマップ
観光情報提供の面では、函館市の観光情報サイト「はこぶら」の中で、街歩きコースが26コースも地図入りで紹介されるなど、個人や家族客に向けた街歩きを中心とした観光情報の提供が充実している。
函館市電の車内でも、600円で1日乗車券販売されていて、乗車券とともに市内の観光マップも提供されているが、このマップには協賛店の広告も掲載されていて、1日乗車券を見せれば観光施設や飲食店での割引サービスも付いているなど、観光客にとってはお得に楽しめるものとなっている。
函館朝市は観光市場
函館駅の隣にある函館朝市は、雨にも関わらず多くの観光客が詰めかけていて、集合店舗となっている市場だけでなく、海産物や果物などを販売する土産物店、海鮮丼を中心に提供する飲食店などが集まったエリアで、印象では観光客向け市場の様相が強い。
来店客への声掛けも多く、値引きなども持ちかけられたが、全体的に物価は高めの印象が残った(翌日訪問した青森のアウガ地下にある市民向けの市場では、函館と同じものが6割くらいの値段で販売されていた)。
しかし、市場の雰囲気と活気はあって、買い物をするならこちらの方が掛け合いも含め楽しめる。
また、海鮮丼を中心に提供する飲食店が集まるどんぶり横丁市場では、修学旅行生への特別割引の表示や、中国語でのメニュー表示などもあり、インバウンドを含めて観光客への対応が進んでいる。
青森は観光でもコンパクトシティ
青森駅を中心とした徒歩県内のエリアには、青森ねぶたを展示、紹介する青森市文化観光交流施設「ワ・ラッセ」、JR東日本が整備運営する物産販売所にシードルレストランを併設する「A-FACTRY」、青函連絡船の歴史を紹介する青森市港湾文化交流施設「八甲田丸」、青森市を一望できる展望台を持ち会議室や物産販売施設を併設する青森県観光物産館「アスパム」が整備され、さらに市民の買い物の場となっている市場も数か所残っていて、これらも観光客向けのサービスを実施するなどコンパクトなエリアで文化や景観、食を楽しめる施設が整備されている。
特に、東北新幹線の新青森駅開業に合わせてオープンした、青森市の「ワ・ラッセ」では、その年のねぶた祭りでねぶた大賞や知事賞、商工会議所会頭賞などの受賞作品が展示される他、直前のねぶたの映像が放映され、また、子供達によるお囃子を交えたねぶた体験や紙はり体験なども行われるなど体験型施設として整備されている。
「ワ・ラッセ」に隣接し同時にオープンした「A-FACTRY」では、明るい店内に青森県の土産品や物産の直売だけでなく、カフェやガレット・レストランを併設し、小さな子供連れのお母さんや若いカップルが利用していたが、港に面してテラス席も用意されていて、観光客だけでなく地元の方々のデートスポットとしても人気がでそうな空間である。
青森県の観光物産施設「アスパム」では、物産コーナーだけでなく、青森県の観光を映像で紹介するシアターもあり、また毎日津軽三味線の生演奏が行われるなど、青森を体感できる観光スポットとなっている。
歩いて回れるコンパクトな距離に施設を配置したことで、観光客が施設間を歩き回り、商店街を含めたエリア全体の賑わい感につながっているのではないだろうか。
観光客をとらえた市民市場の生き残り策
以前、青森を訪れた際に地元の方から、「街なかの市場は残っているが、若者はスーパーでの買い物が便利で市場文化はどんどんすたれていっている」と伺っていた。
そのような中で、今回宿泊した青森国際ホテルの前にあった市場は取り壊され、現在マンションが建設中であった。
そのような中で、お隣の古川市場では、1,080円で事前に10枚つづりのチケットを買い、市場内の店舗を巡り海産物をチケットで購入してオリジナルのどんぶりを創る「のっけ丼」という取り組みが人気で、多くの観光客が詰めかけていた。
1枚100円相当のチケットで、各店舗の店頭に並んでいるマグロやヒラメのお刺身やいくら、うに、かに、ホタテなどを1~2枚のチケットと交換にごはんの入ったどんぶりに次々と載せていき、できあがったどんぶりは2階に設けられたテーブル席で楽しむというスタイルとなっていて、観光客にとっては自分の好きなネタを選んで海鮮丼を楽しめるメリットがあり、お店にとっても纏めて販売すると数百円のものが、小分けにすることで利幅を増やすことができるという、両方にメリットがあるシステムとなっている。
実際に函館では、多くの観光客が地域に長時間滞在し何度も訪れることができる環境にあることで観光市場として成立しているし、青森では市民向けの市場が、苦しい経営の中で観光客という新たな顧客開拓に向けて個店ができるちょっとした取り組みが、今のところうまくいっているのであって、全国のどこにでも当てはまる成功例ではない。
一声のやさしさがイメージを変える
最後に縄文時代の「三内丸山遺跡」を訪問したが、こちらは青森県教育庁が発掘整備した施設で、縄文時代の集落跡を再現して、出土品とともに展示公開していて、全ての施設が入場無料となっていて、また30分おきにボランティアガイドによるガイドツアー(約50分)も行われていた。
それに加え、観光客が持っている荷物を預けるロッカーも無料で、ロッカーに入らないキャリーバックを持っていたら、総合受付の方が「窓口で預りますよ」と声をかけてくれた。
帰り際には、他の窓口の方が「記念に写真をお撮りしますよ」と更に声をかけてくれて、ついつい集合写真を撮っていただいくことになったが、本当によく接客のトレーニングがされていると感じた。
このような一声が、旅の印象を良くし、観光地のイメージを向上させることにもつながるのではないだろうか。
観光の楽しみは景観から五感へ
以前は、観光の目的地と言えば絶景であったり自然であったり、どちらかというと見て楽しむものだったが、現在では体験型や体感型のものが人気を集めている。
景観であっても、ただ見せるのではなくガイド役がついて歴史や謂れなどを紹介することで、体験に変化させる取組みが増えている。
試食等での食感や店頭調理での匂いが記憶に残ったり、ボランティアガイドの方々など地元の方との交流体験が思い出として印象深く残るのではないだろうか。
観光地や観光施設だけでなく、文化施設などでも、五感をフルに楽しませる工夫が必要となっている。