診断士の視点

SDGsな“湯治体験プラン”を体験

2025.02.03 投稿峠岡伸行

SDGsな“湯治体験プラン”を体験

この年末年始は9連休と長い休みだったものの、旅行に行けば観光地は混雑していますし、また宿泊料金等も高くなっているので、家族揃って自宅で自炊生活と決め込みました。
しかし、寒くなると温泉が恋しくなり、近くの温泉に行こうと「じゃらん」のサイトを眺めていた際に、「湯治体験」の文字とその値段が目に飛び込んできました。

石川県の粟津温泉の老舗旅館「法師」のプランで、1泊2食の「湯治体験」で、内容は、①食事の2食は食事処でお弁当を用意、②部屋は大浴場に近い8畳の和室、③フロントからお部屋までの案内はなし、④布団の出し入れは自分で、という、温泉では付きものの仲居さんの接客やサービスは省き、純粋に温泉を楽しむ内容で、価格も早期割引で一人1万円ととてもリーズナブルなものです。
粟津温泉「法師」といえば、開湯1300年の北陸最古の温泉といわれる老舗旅館で、日本建築の建物に囲まれた日本庭園も素晴らしい名旅館で、私も、以前、仕事の会合で宿泊させていただいたことがあります。まず、部屋に入ると、約11畳の和室に布団が2組用意されていて、寝る時に自分で敷くスタイルというのがよくわかります。最近、和室にベッドを入れたタイプの部屋が増えてきていますが、そのためにはある程度部屋が広くなくてはいけませんし、改装も必要になってきますので、「法師」では一部の客室ではベッド導入に対応しているものの、小さめの部屋はそのままで、その分リーズナブルな価格で提供しているようです。
今回は、“湯治体験”ですから、お風呂メインでのプランなので、まずは大浴場へ行ってみると、広い大浴場に露天風呂やサウナもついて、なかなか充実しています。入浴中はわからなかったのですが、入浴後は体がポカポカと暖かさが持続し、ちょっとだけ塩素系の匂いが残っていました。泉質を見ると、「ナトリウム硫酸塩泉」という美肌効果や傷の修復に効果があるようで、自律神経を整えたり、血流量を増やし脳卒中予防にも効果があると言われています。
さて、温泉旅館と言えばお風呂と食事がメインですが、今回は、リーズナブルな設定のプランなので、大広間に部屋番号が書かれたテーブルを配置した食事会場に、お弁当形式の夕食が用意されていました。入り口に仲居さんがいて、ごはんやお茶はセルフサービスで入れ、みそ汁替わりに豚汁が暖められるようにコンロの上に用意されていました。

なにせ2食付き1万円ですから、ビジネスホテルよりも安い値段で温泉が楽しめるということで、食事にはあまり期待していなかったのですが、「一品ずつの提供」がないだけで、それなりに品数もあり、十分楽しめる内容でした。
朝食も四角い弁当容器に入ったおかずが用意されていて、セルフサービスですがごはんやみそ汁は暖かい状態で提供されています。
また、子供連れの利用者の方には、自分で部屋に運んで食事がとれるように台車も貸し出していて、いろいろと行き届いた「セルフ」サービスとなっていました。
このお弁当形式というのは、洗い物や食べ残しを減らすという観点からは、SDGsへの対応という見方もできますし、「湯治体験」というネーミングからは、「法師の売りは温泉の効能を楽しんでいただくこと」と強調しながら、それ以外のサービスは「料金」とともにお客様に選択いただこうという潔さも感じることができます。

今回訪問して感じたのは、やはり人手不足が深刻なのか、外国人の社員(フロント業務)や技能実習生(若手女性で仲居業務を)、それと高齢者の仲居さんが多いことで、フロントにいた若い男性は「研修中」というアルバイトのようです。地方の温泉地では当然のようにみられる姿で、このような人手をかけなくてもできる取り組みとして、「湯治体験」というセルフサービス型プランを打ち出したように思います。

福井県中小企業診断士協会では、令和3年度にあわら市に対して「観光活性化に向けて提案」を行っていますが、その中で「あわら温泉」に向けて今後必要な対応として、①団体から個人へ、②マイクロツーリズム、③コト・トキ・イミ、④SDGs、⑤DX化、⑥省人化、⑦調達難への対応、といった点を指摘させていただきました。
令和3年といえば、まだまだコロナによる自粛ムードが高く、あわら温泉においても関西方面からの団体客が大きく減少し、またコロナ禍前からも県内客が減少していた時期であり、コロナ後に向けた取り組みとして意識すべきこととしての提案でもありました。

令和6年春、北陸新幹線の福井県内開業とともに、関東方面からの宿泊客増に対応するために県内の温泉旅館も客室の改装や露天風呂の設置などの投資を行い、高級化路線をとってきていますが、一方で、このような投資を行えない旅館では、バイキング形式の食事を取り入れるなど省人化したシステムで、よりリーズナブルな価格帯に移行しているところもでてきており、同じ温泉地でも2極化が進んでいるように感じますし、一つの旅館の中でも2つの取組みが必要になっていくのかも知れません。
令和3年度に提案したように、個人旅行が増加し、環境に配慮した取り組みが当たり前となり、加えて人手不足もあって省人化への対応は不可欠で、円安もあり電気や燃料代、食材価格が上昇している中で、今ある施設や人員を活かしながら、近くの顧客をリピーターとして開拓していく新たな「コト、トキ、イミ」づけが必要になっているのではないかと感じます。
今回、旅館をチェックアウトする際に、下足番の方が靴を温めていただいことが、セルフだけど「おもてなし」はしっかり行う旅館の姿勢が伺えて、とてもうれしくなりました。

  • 歴史を感じさせる粟津温泉「法師」の玄関
    歴史を感じさせる粟津温泉「法師」の玄関
  •  布団が2組積まれていて、セルフ感が強い
    布団が2組積まれていて、セルフ感が強い
  • 2段重ねに刺身や焼き物、てんぷらなどが
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  • 星野リゾート界別府では、改装の際に畳を活かしベッドを導入
    星野リゾート界別府では、改装の際に畳を活かしベッドを導入